第二十一章 第一冒険者発見!
「緑が戻ってきているね」
「一ヶ月でここまで戻るもんなんだな」
周囲の景色を見渡せば疎らな木々の間に緑色の絨毯が広がっていた。
一月程前の黒い悪魔達による被害を考えると、植物の力強さに感心する。
「動物も少しづつ増えているね」
ふと見上げれば、木々の枝を渡り歩くリスが居た。
大型の生き物の姿や気配は無いが、小動物や昆虫の類は順調に繁殖しているようだ。
「魔獣や魔物みたいな大型の生き物は、警戒しているのかこの付近には近づかないみたいだね」
「そうみたいだ。獣臭が大分薄くなっている」
確認する様に鼻をひくつかせるが、濃い草の香りが届くのみだ。
兎の獣人は特性上、犬程とは言えないが嗅覚に優れている。
黒兎の姿の時程に匂いを嗅ぎ分けられる訳ではないが、ただの人間に比べれば遥かに高精度だろう。
「あんな事が有った後だし、まだ記憶に新しいんだろうね」
そんな災害現場を経由することで、こうしてのんびりと移動する事が出来ている。
「……完全に処理された場面を見ていなかったら、俺もこうしてのんびりする事はできないしな」
以前出会ったとある冒険者達。
彼らが、悪魔の巣穴に落とした爆弾の様な何か。
閃光を爆散しながらもその光は目に優しいという、少し理解できない品物は黒い悪魔達を全滅させた。
一箇所に集まるという特性上、黒い悪魔の生き残りの確立は絶望的だ。
「あれ凄かったよね。離れた場所に居たんだけど、森の一角が光に包まれてるし、所々に光の柱が噴出していたよ」
「たぶん、巣穴の中に遠くへ繋がる横道が在ったんだろうな」
よくよく考えれば、あれだけの被害で済んだ事は奇跡に近いのではないか。
「あ、ちょうどこの辺りじゃない? 光に包まれていた場所って」
もはや周囲に木々は存在せず、緑の広場が広がっている。
「あー、そうだそうだ。たしかこっち側に巣穴があったはず」
緑に覆われていて一瞬気が付かなかったが、爆心地のすぐ傍まで来ていた様だ。
あれからどうなったのか、好奇心もあり現場を見に行く。
「うわ、すっごい穴。こんなに大きな穴にギッシリ詰まっていたの?」
「並々と溜まってたぞ……」
嫌な光景を思い出したせいか、どこかげんなりとする悠兎。
覗き込めば、予想よりも深い。
大人2人が肩車をしても脱出は叶わないだろう。
ただ、不思議な事に死骸は一匹たりとも無く、僅かな灰が底で山を作るのみだ。
撤去されたのか、解け消えたのか、2人には想像がつかない。
「あれ?」
疑問の声を上げた鴉弥を見れば、背嚢を地面に下ろしていた。
「ん、どうした?」
「よいしょっと」
彼女は躊躇いなく穴の中へと飛び込んだ。
高さはあるものの、背中から羽を伸ばして落下速度を軽減する。
驚く悠兎を置いて、その底へ音も無く着地する。
「確かこの辺りに……あった!」
灰の中から何かを拾うと、翼をはためかせて戻ってきた。
「見て悠兎。これ、ロケットペンダントだよね」
差し出されたそれは、白銀に煌めくペンダントだ。
横のボタンを押して開いた中には、白い小さな宝石を中心に模様が刻まれていた。
「何だこれ?」
「何だろうね。写真じゃないって事は、身分証明や許可証の様な物なのかな?」
少なくとも、思い出作りという用途ではなさそうだ。
「町に着いたら落し物で届けたほうが良いかもね」
「持ってたらトラブルに巻き込まれそうだもんな」
作りも素材も安物とは思えない。
事実上の根無し草である身分としては、下手なトラブルは回避したい。
「それになぁ、何でデビルローチの巣穴に無傷で残ってんだって話だし」
有機無機と関係無しに喰い散らかす雑食性を持つ魔の虫。
そんな存在の巣穴に無傷で残っているというのは、不思議だ。
「呪いのペンダントとかじゃないだろうな」
魔術というものが実在するこの世界では、存在しても不思議ではない。
「それは大丈夫じゃないかな。どちらかというと清浄なものを感じるし、あの光みたいに。ほらっ」
飛んできたペンダントを掴み取ってみれば、確かにあの浄化の光に似た清浄さを感じる。
「だから食べなかった? 食べたら浄化されるから?」
推測はあながち間違いではなさそうだ。
「……それ以外に気になるような物は無さそうだね」
背嚢を背負い直した鴉弥は、巣穴の周りを歩き回る。
その言葉通り、もはやかつての巣穴は静寂を残すのみだ。
手の中で持て余すペンダントを背嚢の中にしまう。
「それじゃ、行くか」
「そうだね。地図によると、森を抜けるまで後30分も掛からないみたいだよ」
鴉弥は慣れた手つきでPDAの地図機能で確認する。
ご丁寧に、現在地の表示付きだ。
おかげで森の中を安心して進む事ができる。
「町に着いたら、まず冒険者組合で身分証明書を作らないとね」
「身分証の有無で宿の値段が変わるって話だからなぁ」
旅の支度金として、鞠から幾らか貰ったが、節約が可能ならば節約するに越した事はない。
「町にはどんな物があるんだろうね」
「物語のお約束だと串焼きとかの出店でつまみ食いってのが有ったな」
「良いねー串焼き。でも、焼き鳥があるともっと良いねー」
そんな雑談を交わしつつ、2人は森の中を進んて行った。
●
「あれから目撃情報無くなっちゃったね」
「一ヶ月前に俺達が出会ってからそれっきりだからね。少し気になるな」
森の中を進む集団が居た。
性別も種族も違う集団だ。
「白鳥を狙う猟師の話も聞きますし、森の深部へ逃げたのでしょうか?」
「それは無いな。深部には魔素の濃度からして外周部と比べ物にならない危険な存在が闊歩している。あの2匹に人間並みの知性があったとしても、生き延びるのは困難だろう」
時折、自生している草を摘んでは束にして纏める。
束に纏められた草は全てが同じ種類だった。
「よし、目標数まであと一束っと。――じゃあアレですか? あの酒場で話題の噂が本当って事ですか?」
「どうだろうな? 彼らの性格を考えれば荒唐無稽と言い切るにはありえない話しでもないからな」
穏やかに談笑をしているが、彼らの周囲へ向けた注意が切れることはない。
「実際、この森の深部には彼らの拠点が存在するという噂もあるからな。彼らが手を出したのなら、関わるべきではないな」
「えー!? あのモフモフはわたしのなのに!?」
「少なくともお前のではないのは確かだよ」
猫耳少女のブーイングを少年は受け流して話しを続ける。
「でも、シューヴァラさん。道具や建築物から存在していたのは確かですけど、ずっと昔の存在が今も生きているっていうのは信じられません」
「それはそうだ。だが、ルール付きの防衛戦とはいえ、二十数人で万を越える連合軍を撃退したのは組合の公式記録に残っている事実だ。他にも耳を疑うような逸話がある連中だからな。長生きしている程度じゃ驚きはしない」
「記録映像も残ってるんでしたっけ。でも、俺らの中でそれを見られるのはシューヴァラさんだけじゃないですか」
「見たかったらランクを上げる事だな。ただ、実際に目にした感想としては中々に衝撃的だったな。自分の中に芯がない人間があれを見たら確実に引っ張られるぞ。憧れにしろ挫折にしろ、な」
笑ってはいるが、その言葉には真剣味があった。
「まぁ、見る機会が有ったら、娯楽作品として見ておけ。アレ程、真面目に見るのが馬鹿らしくなる記録もないからな」
そこまで言われる映像とは一体何なのか興味は尽きないが、遠い未来の話になるだろう。
「お話の途中すみません、こちらに何かが近づいています。……人が2人の様ですね」
弓を持ったエルフの少女が話しに割り込む。
「この辺りで盗賊の話は聞かないし、ご同輩かなー?」
「そうだとしても気を抜くな。あまり居ないが他人の手柄を横取りする輩ではないとは限らんからな」
武器を構えるとまではいかないが、いつでも武器を振るえるように力を入れる。
その場で待ち構えるようにすると、果たしてそれらは姿を現した。
「あ、どうも。こんに、ち……は」
姿を現したのは兎獣人の少年。
彼はこちらを見ると何故か目を丸くする。
「どうしたの悠兎? そんなところで固まっちゃって」
続いて後ろから現れたのは白を形容する少女。
どちらも、この辺りでは見ない和の服を身に纏っていた。
「おや、冒険者かな? こんにちは」
この2人との関係が長いものになるとは、今はまだ知らなかった。




