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終焉の聖女は皺を隠さない ~追放した若手パーティが、コスプレ老婆の神罰で塵に還るまで~  作者: La Mistral
第四章 黄昏(たそがれ)に咲く黒百合

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第19話:忘却の墓標

教皇庁の瓦礫の下、そこには歴史の教科書が決して触れない「真実」が眠っていました。

かつて帝都を救ったとされる英雄たちの、変わり果てた姿。死してなお休むことを許されず、教会の「防衛兵器」として繋ぎ止められていた亡者たち。

アガサは、自分を捨てた組織が、死者にさえもどれほどの冒涜を繰り返してきたかを知ります。

「さあ、立ち上がりなさい。本当の神罰を教えてあげるのよ」

老婆の杖が指揮棒となり、数百年分の怨念が地上へと雪崩れ込む。

聖域が血の海へと変わる、凄惨な「里帰り」が幕を開けます。

崩壊した教皇庁の瓦礫から、アガサはかつて自分が幽閉されていた地下深奥へと再び足を踏み入れた。


鼻腔を突くのは、湿った土と、長い間日光を拒絶し続けてきた場所特有の、鼻の奥がツンとするような「拒絶」の臭いだ。


「アガサ様。教皇たちが隠したかったのは、単なる私欲ではございません。この壁の奥……数百年分の『選ばれなかった者たち』の叫びが、結晶となってこびりついておりますわ」


プリシラが影の指先で壁をなぞると、古い漆喰が「パラパラ」と剥がれ落ち、そこには無数の名前が刻まれていた。


アガサの掌には、杖を通じて、自分と同じように「無能」の烙印を押されて消えていった者たちの、凍りつくような冷気が伝わってくる。


「……彼らは、自分たちに都合の良い『奇跡』だけを抽出し、その搾りかすをここに捨ててきたのね。私が最後の『搾りかす』になるはずだった場所よ」


アガサの耳には、換気口から吹き込む風が、死者たちのすすり泣きのように「ヒュウ、ヒュウ」と鳴る音が届く。


口内に広がるのは、日の目を見ることなく朽ちていった、湿った鉄のような無念の味だ。


「さあ、見せてちょうだい。教会の地下に隠されていた、帝国最大の『恥部』というやつを」


アガサが杖の先で床の隠し紋章を叩くと、床が「ゴゴゴ……」と重低音を立てて開き、さらに下へと続く螺旋階段が現れた。


耳に届いたのは、何世紀もの間、誰も触れることのなかった「真の静寂」が、初めて破られた瞬間の乾いた振動だった。


螺旋階段を下りるたび、空気は密度を増し、肺を圧迫するような重苦しさに変わっていく。


鼻腔を突くのは、数世紀にわたってよどんだ魔力と、防腐処理を施された古い遺骸が放つ、乾燥した薬草のような刺すような臭いだ。


「アガサ様。この先、教会の『聖徒』として歴史に名を残した者たちの真の姿が眠っております。

美化された伝説の裏側……継ぎ接ぎだらけの肉体と、無理やり繋ぎ止められた呪われた魂の群れですわ」


プリシラが影のランタンを掲げると、闇の奥に整然と並ぶ水晶の棺が浮かび上がる。


アガサの掌には、杖を通じて、棺の中から漏れ出す「死ねない絶望」の、微弱で狂おしい脈動が伝わってきた。


「……伝説の聖者たちは、死後も休ませてもらえなかったのね。死体を改造し、教会の『守護神』として再利用する。どこまで傲慢な組織かしら」


アガサの耳には、水晶の壁を内側から爪で引っ掻くような「カリカリ」という微かな音が届く。


口内に広がるのは、死者にさえ安息を与えない、吐き気を催すほど執拗な支配の味だ。


「……ア、アガサ……。そこへは……行ってはならん……。あれが目覚めれば、生者も死者も……等しく喰い尽くされる……!」


階段の上に放置された、半死半生の教皇が震える声で叫ぶ。


アガサは一歩も足を止めず、その醜悪な警告を嘲笑うように、最も巨大な棺の前に立った。


「喰い尽くされればいいわ。死者が生者を喰らい、偽りの天国が地獄へと裏返る。それこそが、今の帝国に相応しい幕引きよ」


アガサが杖の先で水晶の棺に触れると、表面に「ピキピキ」と漆黒の亀裂が走り、封じられていた禍々しい魔力が一気に噴き出した。


耳に届いたのは、数百年ぶりに自由を得た「死せる英雄」たちの、骨を震わせるような歓喜の咆哮だった。


砕け散った水晶の破片が、床に「シャラン」と冷たい音を立てて降り注ぐ。


鼻腔を突くのは、数百年ぶりに外気に触れた「古き魔力」が、腐敗した肉と反応して発する、焦げた羊皮紙のような鼻を刺す臭いだ。


「アガサ様。お目覚めになりましたわ。かつて『慈愛の盾』と謳われた、初代聖騎士ガウェインの亡骸。今はただ、失った命を求めて彷徨う、

飢えた影の塊に過ぎません」


プリシラが影の衣を広げ、棺から這い出してきた異形を指し示す。


アガサの掌には、杖を通じて、目の前の怪物が放つ「空腹」の凄まじい圧力が、心臓を直接握り潰すような振動となって伝わる。


「……慈愛?これほど禍々しい渇望を秘めた男が、聖騎士として崇められていたなんて。歴史なんて、後の者が都合よく書き換えた絵本に過ぎないわね」


アガサの耳には、ガウェインであった「肉の塊」が、顎を鳴らしながら「ギチ、ギチ」と骨を擦り合わせる音が届く。


口内に広がるのは、死を拒絶し続けた結果、極限まで濃縮された「生への執着」の、ひどく泥臭い味だ。


「ア、アア……。我が……国……我が…名……」


「あなたの国はもう滅びたわ。あなたの名も、これからは呪いの代名詞として刻まれる。……さあ、その重い責務から、私が解放してあげましょう」


アガサが杖を振るうと、漆黒の魔力がガウェインの虚ろな眼窩に吸い込まれていく。


耳に届くのは、聖なる鎧が内側からの圧力に耐えかね、一斉に「バリバリ」とはじけ飛ぶ、壮絶な解体の音だった。


砕け散った聖騎士の鎧の下から現れたのは、幾重にも重なる呪印が刻まれた、青白く干からびた肉体だった。


鼻腔を突くのは、無理やり魂を肉体に繋ぎ止めていた「秘術の薬液」が気化し、薬品と古い血が混ざったような喉を焼く臭いだ。


「アガサ様。この男の魂は、すでに千切れ、継ぎ接ぎされております。もはや一人の人間ではなく、教会の『防衛兵器』として作り替えられた残骸ですわ」


プリシラが影の糸を操り、空中に飛散した鎧の破片を静止させる。


アガサの掌には、杖を通じて、ガウェインの体内から溢れ出す「終わらせてくれ」という、言葉にならない無数の思念が、針で刺すような痛みとなって伝わった。


「……兵器として、何百年も。死ぬことさえ許されず、ただ帝都の闇を守らされていたのね。哀れだわ、英雄なんて呼ばれるから、こんな目に遭うのよ」


アガサの耳には、ガウェインの喉の奥から漏れる、枯れた笛のような「ヒュー、ヒュー」という絶望の音が届く。


口内に広がるのは、他人の身勝手な理想を押し付けられた者の、砂を噛むような渇いた味だ。


「……滅……セ……すべて……ヲ……」


「ええ、あなたの望み通りにしてあげる。この腐りきった地下室も、あなたを閉じ込めた教皇庁も、すべて私の闇で塗り潰してあげましょう」


アガサが杖を高く掲げると、地下室全体に漆黒の魔力が広がり、他の棺までもが共鳴するように「ガタガタ」と激しく震え始めた。


耳に届いたのは、何十、何百という「忘れ去られた死者たち」が、鎖を解かれようとする瞬間の、地鳴りのような咆哮だった。


地下墓所の隅々まで広がった漆黒の魔力が、水晶の棺を一つずつ「パリン、パリン」と小気味よい音を立てて砕いていく。


鼻腔を突くのは、永い眠りから強制的に引きずり出された数世紀分の「死」が混ざり合い、濃厚な発酵臭へと変わった、噎せ返るような空気だ。


「アガサ様。壮観ですわ。歴代の聖女、賢者、騎士……教会の歴史を彩った名士たちが、今やただの『飢えた亡者』として、貴女の影に跪こうとしております」


プリシラが影を波打たせると、這い出してきた死者たちがアガサの足元に集まり、「カチカチ」と歯を鳴らして彼女の法衣の裾に触れようとする。


アガサの掌には、杖を通じて、彼らの魂が持っていた名誉や未練が、真っ黒なインクとなって吸い込まれていく「ドクドク」という冷たい脈動が伝わった。


「……私の杖は、もう奇跡を紡ぐためのものではないわ。これからは、死者たちの怨念を束ねる『指揮棒』。滅びの旋律を奏でるための、ただの道具よ」


アガサの耳には、亡者たちが上げる「アア……アア……」という、言葉を忘れた者たちの空虚な合唱が届く。


口内に広がるのは、他人の死後まで支配し、己の力へと変える、禁忌の果実を囓ったような甘美で痺れる毒の味だ。


「さあ、立ち上がりなさい。あなたたちを閉じ込めたこの冷たい檻を壊し、地上で飽食を貪る者たちに、『本当の神罰』を教えてあげるのよ」


アガサが杖を前方の壁に向かって振るうと、亡者たちの群れが一斉に、重力に逆らうように「シュルシュル」と壁を這い登り始めた。


耳に届くのは、地上へ向かう死者の軍勢が、石壁を爪で抉りながら進む、不吉で執拗な「ガリガリ」という音だった。


地上へと続く階段を、亡者たちの群れが「ズルリ、ズルリ」と這い上がっていく。


鼻腔を突くのは、地下の冷気と地上の温い空気が混ざり合い、結露した石壁から放たれる、カビと鉄錆が混じったような湿った臭いだ。


「アガサ様。教皇庁の広間では、今頃、逃げ場を失った聖職者たちが、扉の向こうから聞こえるこの『足音』に、魂を震わせていることでしょう」


プリシラが影の触手で、先頭を行く亡者の歪んだ背中を優しく押し出す。


アガサの耳には、亡者たちが階段を踏みしめる「ペタ、ペタ」という濡れた足音と、彼らの体からこぼれ落ちる古い呪符が「サワサワ」と擦れる音が届いていた。


「……良いわ。彼らが一生をかけて積み上げた『聖なる権威』が、かつて崇拝していた先祖の手によって、無惨に引き裂かれる光景を想像しなさい」


アガサの掌には、杖を通じて、亡者たちが地上の「生気」を感じ取り、一際激しく飢えを露にする「ドクン、ドクン」という醜い高鳴りが伝わってくる。


口内に広がるのは、聖域を蹂躙し、神聖な静寂を汚物に染め上げていく、冷酷な達成感に満ちた泥の味だ。


「……あ、ああ……あが……あ……!」


教皇庁の最上階、重厚な扉の向こうから、生き残った者たちの「ヒィッ」という短い悲鳴が漏れ聞こえる。


アガサは、自分を「無能」と蔑み、暗がりに葬ろうとした者たちの末路を思い描き、唇を吊り上げた。


「開けなさい、プリシラ。彼らが待ち望んでいた、『先祖の再会』という名の奇跡を、その目に焼き付けてあげるために」


アガサが杖を軽く一振りすると、巨大な観音開きの扉が「ドォン!」と内側から爆ぜ、逃げ場を失った高位聖職者たちの前に、数百年分の死が雪崩れ込んだ。


耳に届いたのは、豪華な法衣を纏った者たちが、かつての英雄に組み伏せられ、肉を食いちぎられる「グチャリ」という凄惨な音だった。


血飛沫が舞い、教皇庁の贅を尽くした壁画を赤黒く汚していく。


鼻腔を突くのは、高級な絨毯に染み込む生血の生臭さと、恐怖で失禁した老人たちが放つ、動物的な排泄物の臭いだ。


「アガサ様。見てください。彼らが縋っていた『神の加護』など、この亡者たちの指先一本すら止めることができませんわ。祈りは届かず、叫びは肉を噛み砕く音にかき消される……なんと素晴らしい浄化の光景でしょう」


プリシラは、亡者に喉を食い破られ、痙攣する聖職者の体を楽しげに飛び越える。


アガサの耳には、かつて自分を断罪した者たちが、今は声にもならない「アガ、ガ……」という濁った音を漏らす、断末魔のオーケストラが届いていた。


「……これが、あなたたちが作り上げた帝国の『裏側』よ。死者を弄び、生者を欺いた報い。

私という『無能』が、その全てのツケを回収してあげるわ」


アガサの掌には、杖を通じて、教皇庁を支えていた最後の精神的柱が「ポキリ」と折れ、建物全体が絶望の色に染まる感触が伝わった。


口内に広がるのは、聖域を完全に蹂躙し終えた後の、氷のように冷たく、それでいて胸の奥が焼けるような独占的な愉悦の味だ。


「さあ、プリシラ。仕上げに行きましょう。

この地獄の最上段で、自分だけは助かると信じている『あの男』の元へ」


アガサが血の海を静かに歩き出すと、彼女の影から伸びた黒い百合が、死体から溢れ出す魔力を吸い取って禍々しく開花していく。


耳に届くのは、死者の軍勢がさらに奥へと突き進む「ズズズ……」という地這う音と、帝都の崩壊を告げる、真夜中の鐘の鈍い響きだった。

第19話をお読みいただき、ありがとうございました。

これまでアガサ一人の復讐劇だった物語は、教会の犠牲になった数世紀分の「忘れ去られた者たち」を巻き込み、帝都そのものを飲み込む大災厄へと変貌しました。

初代聖騎士ガウェインの肉体がはじけ飛ぶ「バリバリ」という音や、亡者たちが階段を這い上がる「ペタ、ペタ」という濡れた足音……。五感を刺すような描写の数々が、アガサの冷徹な愉悦をより際立たせています。

「聖なる権威」が、自分たちが祀り上げていた「先祖」に食い殺されるという皮肉。

口内に広がる「禁忌の果実を囓ったような甘美な毒の味」は、アガサが人としての道を超え、真の「滅びの魔女」へと覚醒した証かもしれません。

アガサ様による帝都の大掃除、いよいよ最終局面です。

もしこの滅びの美学に心惹かれましたら、評価や感想、ブックマークなどで応援いただけると、アガサの闇がより一層深まるかもしれません。

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