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終焉の聖女は皺を隠さない ~追放した若手パーティが、コスプレ老婆の神罰で塵に還るまで~  作者: La Mistral
第四章 黄昏(たそがれ)に咲く黒百合

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第17話:崩壊の序曲

教皇庁の最下層「真実の底」。そこに鎮座していたのは、慈悲深き神ではなく、数千人の犠牲と強欲によって肥え太った「肉の祭壇」でした。

アガサが長年捧げてきた祈りも、積み上げてきた献身も、すべてはこの怪物の餌に過ぎなかった。

その残酷な事実に直面した時、老婆の杖はついに帝都そのものの命運を断ち切る決断を下します。

「守るべき世界」が壊れ、「壊すべき世界」へと変わる瞬間。

偽りの加護が剥がれ落ち、灰と悲鳴に包まれる帝都の最期を、どうぞその目に焼き付けてください。

「神の肉」と呼ばれた異形を葬り去り、アガサはさらに深く、教皇庁の最下層「真実の底」へと足を踏み入れた。


鼻腔を突くのは、祈りや魔法では決して浄化できない、数千人分の死体が折り重なったような濃厚な死臭だ。


「アガサ様。ここが、歴代の教皇たちが『不都合な真実』を捨ててきたゴミ捨て場でございますわ」


プリシラが影のランタンを掲げると、壁一面に埋め込まれた、かつて「無能」と呼ばれ消されていった聖職者たちの髑髏が浮かび上がる。


アガサの掌には、杖を通じて、彼らの無念が冷たい雫となって伝わってきた。


「……平和の裏側には、いつもこの凄惨な積み木があるのね。私が捨てられたのも、この『ゴミの山』を高くするための一欠片に過ぎなかったというわけ」


アガサの耳には、暗闇の奥から「カサカサ」と何かが這い回る、無数の不吉な音が届く。


口内に広がるのは、正義を謳いながら弱者を食い物にしてきた、ドロドロに腐ったヘドロの味だ。


「ア、アガサ……。そこには……教会の『真の主』が……眠って……っ!」


引きずられる教皇の声が、恐怖で裏返る。


アガサは、その怯えを嘲笑うように、暗闇の深淵へ向かって杖を強く振り下ろした。


「主? そんなものは私が今、ここで永久に眠らせてあげるわ。この絶望の底に、新しい秩序なんて必要ないもの」


漆黒の衝撃波が回廊を駆け抜け、最深部の巨大な扉が内側から「グシャリ」とひしゃげた。


耳に届いたのは、教会の創設以来、一度も外気に触れることのなかった「真の闇」が、歓喜の産声を上げるような不気味な風鳴りだった。


ひしゃげた扉の向こう側から、粘り気のある黒い霧がアガサの足元を這い上がってくる。


鼻腔を突くのは、古い血が酸化して鉄錆と混ざり合ったような、肺を焼くほど鋭い金属臭だ。


「アガサ様。この奥に鎮座しているのは、神などではなく、人々の『信仰』という名の狂気が生み出した化け物ですわ」


プリシラが影の壁を作り、アガサの法衣が黒い霧に侵食されるのを防ぐ。


アガサの耳には、霧の奥で幾千もの声が重なり合い、「助けて」「殺して」と呪詛を紡ぐ不協和音が届いた。


「信仰が狂気に変わる瞬間……。それを利用して、この国を支配してきたツケを払ってもらうわ」


アガサの掌には、杖を介して、巨大な心臓が脈打つような重苦しい振動が伝わってくる。


口内に広がるのは、他人の希望を燃料にして燃え上がる、どす黒い欲望の焦げた味だ。


「やめろ……。それに触れれば、この国そのものが……滅びる……!」


「滅びればいいわ。私を捨てた国に、明日を待つ資格なんて最初からないのだから」


アガサが杖の先を虚空へ向けると、集まった魔力が漆黒の針となり、霧の奥に潜む「何か」を貫いた。


耳に届くのは、肉を裂く音ではなく、巨大なガラスの細工が内側から「メキメキ」と砕け散るような、異様な悲鳴だった。


「さあ、姿を見せなさい。あなたが教会の主なら、私という『終焉』に、その首を差し出しなさいな」


霧の奥から這い出してきたのは、歴代教皇の遺骨と金銀の装飾が歪に癒着した、巨大な「肉の祭壇」だった。


鼻腔を突くのは、腐敗した奇跡が放つ、死体に香水をぶちまけたような吐き気を催す甘い臭いだ。


「アガサ様。あれが教会の正体……人々の祈りを吸い上げ、己を太らせるだけの『強欲の繭』にございますわ」


プリシラが不快そうに目を細め、影の鎌を構える。


アガサの耳には、祭壇に埋め込まれた無数の髑髏が、一度に歯を鳴らす「ガチガチ」という狂ったような音が届いた。


「祈れば祈るほど、この怪物は肥大し、その維持のために私のような『贄』が必要だった。滑稽だわ、神の代理人が、ただの家畜の餌番だったなんて」


アガサの掌には、杖を通じて、祭壇が放つ「吸い取る魔力」の凄まじい渇望が伝わってくる。


口内に広がるのは、他人の生血をすすり、何百年も生きながらえてきた古びた吸血鬼のような、ドロリとした粘つく味だ。


「ヒ、ヒィッ……! 主よ、お怒りをお鎮めください! アガサ、お前が……お前が余計なことをするからだ!」


教皇が腰を抜かし、怪物となった祭壇に向かって額を地面に擦りつける。


アガサは冷笑を浮かべ、杖を高く掲げると、周囲の魔力を一箇所に凝縮させた。


「静かになさい、豚。あなたが崇めているその『主』ごと、永遠の静寂に沈めてあげるわ」


アガサが杖を振り下ろすと、凝縮された漆黒の魔力が雷光となって祭壇を直撃した。


耳に届くのは、聖なる装飾品が次々と爆ぜ、怪物の肉が「じゅうじゅう」と焼け焦げる絶叫のハーモニーだった。


焼け焦げた祭壇の肉から、噴水のように黒い血が溢れ出し、深紅の絨毯を汚していく。


鼻腔を突くのは、焼けた金属と腐肉が混ざり合った、この世の終わりを告げるような噎せ返る臭いだ。


「アガサ様。見てください。聖遺物の破片が、肉に食い込んでいた偽りの奇跡を、ボロボロと剥がし落としておりますわ」


プリシラが影の触手で、祭壇から飛び出した「金色の心臓」を虚空で捕らえる。


アガサの掌には、杖を通じて、心臓が必死に命を繋ごうとあがく、ドクドクという醜く卑しい鼓動が伝わった。


「その心臓が、この街の生命線を握っていたのね。……けれど、私が望むのは再生ではなく、すべてが平等に灰へと帰る『無』よ」


アガサの耳には、心臓が空気を求めるように「シュウシュウ」と音を立て、不気味に脈動する音が届く。


口内に広がるのは、何世代にもわたる強欲が凝縮された、ひどく濃厚で、胸焼けのするような脂の味だ。


「や、やめろ……それを壊せば、帝都の加護が消える! 民衆が死に絶えるぞ!」


教皇が這いつくばりながら、アガサの法衣の裾に縋り付こうとする。


アガサは、その老いさらばえた手を無慈悲に杖で踏みつけると、冷たい眼差しで彼を見下ろした。


「民衆? 私を石で打ったあの者たちが、どうなろうと私の知ったことではないわ。……さあ、帝都の命運を、この手で握り潰してあげましょう」


アガサが杖の先を金色の心臓に突き立てると、心臓は「パキリ」と音を立てて結晶化し、黒く染まっていく。


耳に届くのは、帝都全体を支えていた巨大な魔法陣が、耐えきれずに一斉に「バリバリ」と砕け散る絶望の崩落音だった。


帝都全体を支えていた基盤が揺らぎ、教皇庁の床に深い地割れが走る。


鼻腔を突くのは、地下に溜まっていた数百年分の「淀み」が地上へ噴き出す、硫黄のような鼻を刺す臭いだ。


「アガサ様。結界の消失を感じ取った民衆たちが、パニックを起こしておりますわ。悲鳴、怒号、絶望の合唱……これこそ、貴女が贈る最高のレクイエムです」


プリシラが耳を澄ませ、うっとりと微笑む。


アガサの耳には、外の街で巨大な建物が倒壊し、人々が踏み潰されていく「メキメキ、ドォン」という破壊の音が、心地よいリズムで届いていた。


「……綺麗な音ね。私が守ってきた世界が、私がいなくなっただけでこれほど脆く崩れるなんて」


アガサの掌には、結晶化した「金色の心臓」が冷たく冷え切り、ついには動かなくなる「スウッ」とした喪失感が伝わる。


口内に広がるのは、他人の命運を掌の上で転がし、使い捨てた後の、ひどく冷酷で甘美なワインのような味だ。


「ヒッ、ヒイィッ……! 終わりだ、すべてが……神の怒りだ……!」


教皇は地割れに指をかけ、血を流しながらも必死に這い回る。


アガサはその頭上から、杖をゆっくりと、死の宣告のように振り下ろした。


「神の怒りではないわ。これは、あなたたちが虐げた『一人の老婆』の、ただの我儘よ」


アガサが杖の先で地面を叩くと、地割れから影の棘が噴き出し、教皇の法衣を串刺しにして宙へ吊り上げた。


耳に届くのは、重力に逆らえず肉が裂ける「ピリピリ」という音と、教皇が最後に漏らした、神を呪うような汚い絶叫だった。


宙に吊るされた教皇の体から、黄金の装飾品が「バラバラ」と重力に従って床にぶつかり、虚しい音を立てる。


鼻腔を突くのは、権威の象徴であった最高級の香料が、死の恐怖によって中和され、ただの腐敗臭へと変わっていく臭いだ。


「アガサ様。この男、死の間際になっても、まだ己の罪ではなく失った地位を惜しんでおりますわ。影の底へ引きずり込む前に、その薄汚い脳髄を少しだけ洗って差し上げましょうか」


プリシラが影の触手を教皇の耳孔へと潜り込ませる。


アガサの耳には、老人の脳に直接響く「キリキリ」という精神崩壊の音と、言葉にならない嗚咽が混ざり合って届く。


「……地位も、名誉も、あなたが積み上げたすべては、この地割れの奥に流れる泥水と同じ価値しかないのよ。さあ、あなたが最も恐れていた『無』の深淵を覗きなさい」


アガサの掌には、杖を通じて、教皇の生命エネルギーが完全に枯渇し、抜け殻へと変わっていく「フッ」という軽い感覚が伝わった。


口内に広がるのは、長年の不条理をすべて精算し終えた後の、氷のように冷たく無機質な後味だ。


「ああ、あああ……! 暗い、暗い……! 誰も……誰も私を呼ばない……!」


「当然よ。あなたはもう、誰からも必要とされない、ただの『歴史の汚れ』になったのだから」


アガサが杖を軽く払うと、影の棘が教皇を解放し、彼はそのまま底の見えない地割れの闇へと「シュルル」と吸い込まれていった。


耳に届いたのは、彼がかつて信じた天国へは決して届かない、奈落の底で響く小さな水音だけだった。


静寂が戻った玉座の間に、天井の隙間から冷たい月光が差し込む。


鼻腔を突くのは、すべてを焼き尽くし、すべてを壊した後の、雨上がりの土のような静かな湿り気だ。


「アガサ様。教皇庁の心臓部は止まりました。帝都を覆っていた偽りの夜明けも、間もなく、真の闇に飲み込まれることでしょう」


プリシラが影の裾を整え、主の前に跪く。


アガサの耳には、遠くで崩れ続ける街の余韻が、子守歌のように穏やかな調べとなって届いていた。


「……長かったわね、プリシラ。でも、ようやく肩の荷が下りた気分だわ。世界を支えるなんて、老婆の仕事には重すぎたのよ」


アガサの掌には、もはや何の振動も伝わってこない。杖はただの古い木切れに戻り、彼女の荒れた指先に静かな安らぎを与えている。


口内に広がるのは、復讐という名の劇薬を飲み干した後の、心地よい痺れと、冷え切った夜気の味。


「さあ、地上へ戻りましょう。灰に埋もれた街を通り抜けて、誰も私を知らない、本当の自由が待つ場所へ」


アガサがゆっくりと歩き出すと、彼女の足跡から漆黒の百合が咲き乱れ、崩壊した神殿を弔うように埋め尽くしていく。


耳に届くのは、崩れゆく帝都の最期を祝福するように、パチパチと爆ぜる美しい炎の拍手だけだった。

第17話をお読みいただき、ありがとうございました。

帝都を支えていた「金色の心臓」を粉砕し、教皇を奈落へと葬り去ったアガサ。

彼女が守ってきた平穏は、彼女自身の手によって幕を閉じられました。街を包む破壊の音を「心地よいリズム」として聞き届けるアガサの姿には、長年の重荷から解放された者だけが持つ、恐ろしくも清々しい気品が漂っています。

「世界を支えるなんて、老婆の仕事には重すぎたのよ」

すべてを壊し、すべてを精算したアガサ。

彼女が歩む先には、もはや「聖女」としての義務も「荷物持ち」としての屈辱もありません。ただ、プリシラと共に歩む、終わりのない自由が広がっているだけです。

帝都編、これにて完結。

アガサの過激で華麗な復讐劇に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!もしこの結末にカタルシスを感じていただけましたら、評価や感想などで彼女の門出を祝っていただけると幸いです。

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