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終焉の聖女は皺を隠さない ~追放した若手パーティが、コスプレ老婆の神罰で塵に還るまで~  作者: La Mistral
第3章:王都崩壊

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第16話:鉄の檻

「守護」の要であったはずの重厚な鎧が、己を締め上げる鉄の檻へと変わる。

「英知」を誇った賢者の頭脳が、自らの魔力によって沸騰し、空白へと消えていく。

アガサを「荷物」として捨て去った勇者パーティの末路は、あまりにも無惨で、そしてあまりにも皮肉なものでした。

老婆が振るう杖は、もはや救済の道具ではありません。

裏切り者の命を吸い上げ、瑞々しく輝きを増すその枯木は、彼女の内に眠る残酷な聖女を目覚めさせました。

夜が明け、すべてが灰と化した森。

一人の老婆が紡ぐ、最期の診察記録をどうぞ。

「ぎ、ギチ……ギチギチッ……! 鎧が、縮んで……骨が、折れる……ッ!」


ベンの絶叫が、鉄板に反響してこもった音で響く。


アガサの鼻腔を突くのは、加熱された鉄が肉を焼く、鼻を突く焦げ臭いだ。


「その鎧、私が祈りを込めて強化したものだったわね。今は私の呪いが、あなたを愛おしく抱きしめているのよ。どう? 誰よりも重く、熱い抱擁でしょう?」


アガサは、杖から伝わる鉄の熱膨張を、指先のタコで冷徹に感じ取っていた。


口内に広がるのは、ベンの脂汗が蒸発したような、不快な塩味。


「脱げねえ……! 助けてくれ、アガサ!腕の骨が、もう……粉々だぁぁぁッ!」


「助けるわけがないでしょう。私の祈りを『重いだけの騒音』だと笑ったのは、あなた。その耳障りな鎧の軋みこそが、今のあなたに相応しい賛美歌よ」


アガサが杖を一歩分進めると、ベンの大盾が真っ赤に熱を帯び、彼の両腕を焼き切るように食い込んだ。


耳に届くのは、ベンの上腕骨が鉄の圧力に負け、乾いた音を立てて砕ける衝撃音。


「アガサ様。彼の肺、ひしゃげた胸鎧に圧迫され、もう酸素を取り込む隙間もございませんわ」


プリシラが、真っ赤に焼けたベンの兜の隙間を、冷たい指でなぞる。


アガサは、苦悶に歪むベンの瞳が、鉄の仮面の奥で絶望に染まるのを、ただ静かに見つめていた。


「さあ、もっと小さくなりなさい。あなたが守りたかったその卑小な命ごと、一つの鉄屑に成り果てるまで」


ベンの胸鎧が、目に見えてひしゃげていく。


アガサの耳には、折れた肋骨が肺を突き刺す「グチャリ」という湿った音が届いた。


「が……はっ、あが……っ」


「呼吸が苦しい?私が毒霧に巻かれた時、あなたは笑って背を向けたわね。あの時の私の喉の渇き、今、その喉に直接流し込んであげる」


アガサが杖の先でベンの兜を叩くと、鉄の隙間からドロリとした汚泥が溢れ出した。


鼻腔を突くのは、ベンの胃から逆流した胆汁と、血が混ざり合った酸っぱい臭いだ。


「アガサ様。彼の心臓、ひしゃげた鉄板に四方から押し潰されておりますわ。まるで、熟しすぎた果実を握りつぶす直前のようです」


プリシラが、真っ赤に熱せられた鎧に影を這わせ、さらに締め上げる。


アガサの掌には、ベンの最期の鼓動が、鉄を通じて「ドクン、ドクン」と弱々しく伝わる。


「さようなら、ベン。誰よりも頑丈だったあなたの体、最後は誰よりも脆く、ひしゃげた鉄の塊がお似合いよ」


アガサが杖を強く突き立てると、金属の悲鳴と共にベンの鎧が完全に沈黙した。


耳に届くのは、漏れ出した血が熱い鉄に触れ、「ジュッ」と音を立てて蒸発する音だけ。


「……アガサ様。中身はもう、原型を留めておりませんわ。ただの重い鉄の棺桶に成り果てました」


アガサは、鉄の檻と化したかつての仲間を、一瞥もせずに通り過ぎる。


口の中に残る鉄の味を、冷たい夜気で吐き捨てた。


「……アガサ様。最後の一人、賢者セドリックが、震える手で転移のスクロールを広げておりますわ。……無駄な足掻きを」


プリシラの嘲笑が、夜の静寂に冷たく響く。


アガサの鼻を突くのは、古びた紙が焦げるような、魔法発動直前の乾燥したオゾンの臭いだ。


「セドリック……。私の魔導書を『古臭いゴミ』と捨て、知識を盗んだ男。あなたのその薄っぺらな頭脳で、私から逃げ切れると思っているの?」


アガサの杖が、地面に描かれたセドリックの魔法陣を、一突きで霧散させた。


耳に届くのは、スクロールが灰になる「サラサラ」という絶望の音。


「なっ……魔力回路が、繋がらない……!?バカな! アガサ、お前のような落ちこぼれに何ができる!」


「落ちこぼれ? ええ、そうね。でも、その落ちこぼれが編み出した『毒』が、今、あなたの脳を内側から腐らせていることに気づかない?」


アガサが杖を握り直すと、掌にヌメリとした、セドリックの魔力が腐敗していく感触が伝わる。


口内に広がるのは、他人の知識を貪り食った者特有の、吐き気を催す甘ったるい死の味だ。


「あ……が……頭が、割れる……ッ!知識が、俺の、俺の魔法が消えていく……!」


セドリックは、自慢の頭を抱えて地面にのたうち回った。


アガサの耳には、彼の頭蓋の中で魔力が暴走し、脳漿が沸騰する「ブツブツ」という嫌な音が聞こえている。


「誇りだった魔法を忘れ、ただの獣として這い蹲りなさい。知を汚したあなたには、暗闇すら理解できないほどの無知がお似合いよ」


セドリックの鼻から、どろりと濁った液体が溢れ出した。


アガサの鼻腔を突くのは、高熱で焼かれた脳漿の、鼻を抜けるような敗臭だ。


「……あ、あ……ま、ほう……。れ、き……?」


「魔法の名さえ、もう思い出せないの?私の魔導書を破り捨てた、その指先。今は自分の頭を掻きむしる、ただの肉の棒ね」


アガサの掌には、杖を介してセドリックの精神が崩壊していく「パキ、パキ」という、ひび割れるような振動が伝わる。


口内に広がるのは、他人の努力を掠め取った報い、泥を煮詰めたような不快な渋味だ。


「アガサ様。彼の瞳、もはや焦点も合わず、ただの濁った硝子玉にございますわ。賢者の高慢さは、どこへ消えたのでしょうね」


プリシラが、痙攣するセドリックの側頭部を、汚物を見るような目で見下ろした。


アガサの耳には、セドリックが幼児のように「あー、うー」と意味をなさない声を漏らすのが届く。


「セドリック。……あなたは知識を愛したのではない。他人を見下すための道具を欲しただけ。何も持たない裸の魂で、一生その暗闇に震えていなさい」


アガサが杖の石突きで地面を叩くと、セドリックの魔力回路が完全に焼き切れた。


「パチン」という電光が弾ける音と共に、彼は白目を剥き、地面に転がるただの肉塊へと成り下がった。


「……アガサ様。これで、全員の『診断』が完了いたしましたわ。夜明けの風が、ようやく汚れを掃除してくれそうです」


「ええ。……私の法衣を汚した報い、彼らの命をもって、ようやく精算できたわ」


アガサは、抜け殻となったセドリックの背を越え、真っ白な月光が差す道へと歩み出した。


背後には、鉄屑と、腐肉と、廃人だけが残されていた。


森の境界まで歩いたアガサは、一度だけ足を止めた。


背後の闇からは、もう卑俗な嘲笑も、命乞いの声も聞こえない。


鼻腔に残っていた死臭は、朝露の冷たい香りに上書きされようとしていた。


「アガサ様。復讐という劇薬は、貴女の肌に、かつての輝きを取り戻させたようですわ」


プリシラが、アガサの頬を冷たい指先でなぞる。


掌から伝わる杖の振動は、今はもう暴力的ではなく、穏やかな心拍のように静かだ。


「……輝き? いいえ、これはただの血の色よ。

私が捨てた過去と、彼らが捨てた私の情け。その残骸が、私を動かしているだけ」


アガサの耳は、遠くの街から聞こえてくる、朝の鐘の音を捉えた。


口の中に広がるのは、すべての怨敵を葬り去った後の、空虚で、それでいて清々しい雪解け水の味。


「さあ、行きましょう、プリシラ。私の『治療』が必要な病人は、まだこの世界のどこかに隠れているはずだわ」


アガサが杖をひと突きすると、足元にたまっていた澱んだ影が、一斉に霧散した。


彼女の純白の法衣は、返り血一滴すら許さず、朝日に照らされて神々しく翻る。


「……次の患者は、どなたかしら?」


老婆は、深いシワの奥に、かつて誰も見たことがないほど美しく、残酷な笑みを浮かべた。


彼女が踏み出した一歩は、もはや「荷物」の重みなど微塵も感じさせない、軽やかな死神の足取りだった。


アガサの背後で、朝日がゆっくりと昇り始めた。


鼻腔をくすぐるのは、夜の冷気が運んできた針葉樹の鋭い香りと、わずかに残る灰の臭いだ。


「アガサ様。見てください。彼らが自慢していたあの酒場が、今はただの黒い指先のように、空を指差して燃え尽きておりますわ」


プリシラが、焼け跡に残った無惨な亡骸を影で弄ぶ。


アガサの耳には、かつて自分を突き放した「英雄」たちの断末魔さえ、今は心地よい小鳥のさえずりのように響いていた。


「英雄なんて、土に還ればただの肥やしね。私の法衣を泥で汚し、背中を蹴った報い……。少しは、その安い命で償えたかしら」


アガサは杖を握り直す。


掌に伝わるのは、もはや裏切りの痛みではなく、他者の生命力を吸い上げた、瑞々しくも毒々しい活力。


口内に残る鉄の味が、最高の朝食のように彼女の感覚を研ぎ澄ませていく。


「さあ、街へ戻りましょうか。私の『治療』を待っている、次なる不届き者たちが、きっと首を長くして待っているはずだもの」


アガサが踏み出した一歩は、もはや老人のそれではない。


背筋を伸ばし、純白の裾を風に靡かせ、彼女は森を抜けていく。


背後で、崩れ落ちた酒場の柱が「ガラガラ」と乾いた音を立てて崩れた。


それは、アガサが捨て去った過去との、完全な決別の合図だった。


「……アガサ様。ロイドの息の根が、ようやく止まりましたわ。自慢の速さで、地獄まで駆け抜けていったようです」


プリシラが、泥の中に沈んだ無残な肉塊を、影の足先で無造作に蹴り飛ばした。


アガサの鼻腔を突くのは、死に際に溢れ出た体液の不快な臭いと、冷え切った夜気の鋭さ。


「ええ。私を追い越して行ったあの日と、同じ速さだったわね。ただ、行き先が違っただけ」


アガサは、血と泥に塗れた聖銀のナイフを、杖の先で静かに拾い上げた。


掌に伝わるのは、かつて自分が慈しんだ武器が、持ち主の死を悼んで震える微かな振動。


「さあ、本当の夜明けを迎えに行きましょう。

私の『荷物』は、もうこの場所にすべて置いてきたわ」


アガサが背を向けると、背後の闇がロイドの残骸を飲み込み、跡形もなく消し去った。


口の中に広がるのは、復讐を完遂した者にしか許されない、甘美で、どこまでも冷たい雪の味。


老婆は、一度も振り返ることなく、白々と明けゆく地平線へと歩み出した。


その背中は、かつての「荷物持ち」ではなく、死を司る聖女のように凛としていた。

第16話をお読みいただき、ありがとうございました。

勇者パーティ「暁の光」――その光は、アガサという名の闇によって完全に塗りつぶされました。

ガイル、ミラ、ロイド、ベン、そしてセドリック。

彼らがアガサに与えた苦痛は、数倍の重みを伴う「処方箋」となって彼ら自身を蝕み、葬り去りました。

「次の患者は、どなたかしら?」

復讐を終えたアガサの瞳に宿るのは、空虚ではなく、さらなる「治療」への渇望です。

一国の英雄候補たちを葬り去った彼女の噂は、やがて世界中を震撼させる災厄として広がっていくことでしょう。

老婆と影の妖精が歩む、地獄よりも清々しい旅路。

この因果応報の結末にカタルシスを感じていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援いただけると非常に励みになります!

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