空からこぼれた、星のお話 (童話版)
きらきらと、お空に星々がまたたく夜のことでした。
キラリ。
ひとすじの星が長い光の尾を引いて、天から滑り落ちました。
地上の森の奥深く、大きな音を鳴り響き、
眠っていた森の動物たちは、びっくり。
朝、動物たちが音のした場所を見に行くと、そこには輝く泉が生まれていました。
「しくしくしくしく」
泉の底から、泣き声が聞こえてきます。
「あなたはだぁれ? どうしたの?」
口々に尋ねる小鳥やうさぎ、野ネズミたちに、泉の中から声が聞こえてきました。
「僕はお空の星だよ。間違って落っこちちゃって、お空に帰れない。寂しくて、泣いてるんだ」
なんと泉は、空の星が落ちた穴に、涙がたまって出来たものだったのです。
動物たちは、この可哀そうな星に同情しました。
そしていつも、泉のほとりに遊びに来ては、底に沈む星を慰めました。
昼には動物、夜には星空。
にぎやかな彼らを水面に写し、星は日々を過ごしていました。
ある日のことです。
村人が、星の泉を見つけました。
とても澄んだキレイな水。
底には光る小さな星。
皆、泉を欲しがりました。
泉の周りで争いが起こり、人々の流した血が、泉の中に流れ込みました。
透明だった泉の水は真っ赤に染まり、それを見た誰かが叫びました。
「これは"絶望の泉"だ!」
泉には、木で作った大きな蓋が被せられ、
人も動物も寄り付かない、さびれた場所になりました。
小さな星は、また独りぼっちになったのです。
しくしくしくしく。
泣き声は誰に届くこともなく、泉の水は少しずつ、蓋の木を浸していきました。
どれほどの時間が経ったでしょう。
ある日、朽ちて来た木の蓋の隙間から、水を纏った星がするりと出てきました。
◇
きらきらとしずくを光らせながら、星はするすると森の中を進みます。
寂しくて、寂しくて、たまらなくなった星は、強い想いから魔法の力を身に着け、泉から出ると、(誰かと会ってお話したいな)
わくわくと胸躍らせました。
けれど動物に会うことなく、ついには森を出てしまいました。
森を出た先には、広い、田舎の道が続いています。
しばらく行くと、誰かが道に倒れていました。
驚いた星が近づくと、それは人間の男の子のようです。
すっかり痩せた男の子は、苦しそうに呻いていました。
その腕の中には大事そうに、小さなパンが抱きしめられています。
(お腹が空いて倒れたのかな。どうしてこのパンを食べなかったんだろう。あ、もしかして水が足りないの?)
幸い星の身体には、泉の水がしずくになってついていたので、少し考えた後、星は男の子の口の中に、もそもそ入っていきました。
星は男の子の体の中で魔法を使い、どんどん水を送っていきます。
そうしてしばらくすると、男の子はパチリと目を覚ましました。
不思議そうにキョロキョロとあたりを見回します。
自分を助けてくれた"誰か"を探しているのかも知れません。
"僕はここだよ"
星は男の子の身体の中から、話しかけました。
「えっ?」
男の子は目を丸くして、自分のお腹に目を向けます。
星は言いました。
"僕は星。僕に出来ることはある? きみを助けたいんだ"
「!?!?」
男の子はとてもびっくりしましたが、自分が親切な星に助けられたと知ると、どうしてこうなったのか、星に話しました。
家で幼い妹が待っていること。
兄妹には身寄りもお金もなく、どうにか手に入れたパンを持ち帰るところだったこと。
何日も食べてなかったため、気を失ってしまったこと。
パンで今日を生き延びても、この先どうやって暮らしていくか、途方に暮れていること。
"それはとっても大変だね……。そうだ! 森の泉の近くに、不思議な木の実が成っているんだ。動物たちは、その木の実を食べれば病気が怪我が治るって言ってたよ。木の実を売って、暮らしていくのはどう?"
男の子は星の提案に頷き、家に帰ると待ちわびていた妹にパンを与えながら、森に木の実を採りに行きました。
こうして兄妹と星が、仲良く過ごしていたある日。
ふたりが住む小屋に、お城から突然、怖い兵士たちがやってきました。
「お前たち! ご領主さまの庭園から、"薬の木の実"を盗んだだろう?」
◇
何度「違う」と訴えても聞き入れてもらえず、兵に捕まった兄妹は、お城の牢に閉じ込められてしまいました。
「うえっ、うえん、お兄ちゃぁん……」
か細い声で、妹が泣き続けています。
「あたしたち、どうなるのかなぁ」
小さな妹をぎゅっと抱きながら、男の子も不安でいっぱいでした。
ご領主さまの庭園なんて、まったく知りません。
兄妹が売っていたのは、星から教えて貰った泉のほとりに成る木の実。
それがご領主さまの"薬の木の実"と同じものだったのでしょうか?
誰も来ないお城の牢の中で、男の子はほとほと困り果てていました。
このままではどんな重い罰を受けるのか、想像するのも恐ろしく、ふたりは震えます。
そのうちに妹は熱を出し始めました。
不安と疲れが、一度に出たのでしょう。
男の子が妹だけでも助けなくては、と心を決めた時、お腹の中から声がしました。
"僕がお城の中を探ってくるよ!"
星です。
星はずっと、男の子の中にいたのでした。
そうして身体から出た星は、夜にお城の中をめぐり、ご領主さまの娘が重い病いで困っていること。
もう長く患っているのに、"薬の木の実"が足らなくて、なかなか治らないことを調べてきました。
星が言いました。
"森の泉の木の実なら、僕の影響で魔法の力も宿ってる。きっとお姫さまを治せるよ。だからこう言ってみて"
お役人が牢に来た時、男の子は声を張り上げました。
「"薬の木の実"がたくさん生えているところを知っています! "魔法の木の実"です。ぼくがお姫さまの病気を治してみせます!」
◇
そうして。
男の子の案内で、森の泉に辿り着いた人たちは、皆で木の実を摘みました。
たわわに実る木の実は、まるでお空の星のようにキレイでまぁるく、神秘的な力が宿っているようにみえました。庭園の木の実とよく似ていましたが、それよりももっとずっと素敵な実でした。
木の実を煎じて、薬にして、ちょっぴり苦いその薬をお姫さまが飲むと……?
どうでしょう。
お姫さまはみるみるうちに、元気になったのです。
ご領主さまは大層喜び、お姫さまも笑顔でお礼を言いました。
ご領主さまの庭園の木の実が減っていた理由もわかりました。
お城の使用人がこっそり盗んでいたのです。
使用人は罰せられ、ご領主さまは兄妹を間違って捕まえてしまったことを詫びました。
牢から解放された兄妹は、ご領主さまからたくさんのお礼をもらい、お城の保護のもと、薬屋を始めました。
固く閉ざされていた泉の蓋も、ようやく外されました。
銀色の水面はまばゆく光り、まるで聖水のよう。
泉には再び、たくさんの動物たちが集まるようになりました。
それから何度も季節が過ぎて、かつての"絶望の泉"が“希望の泉”と呼ばれ始めた頃。
男の子は立派な青年に成長しました。
多くの命を救った功績で位を授かり、ご領主さまのお姫さまを、お嫁さんに迎えました。
男の子の妹は、国一番の薬師としてお城に勤めていますが、素敵な恋人ともうすぐ結婚するようです。
では地上のお星さまは?
森の泉に戻ったのでしょうか?
それともお空に還れたのでしょうか?
いいえ。
お星さまは、男の子とお姫さま。ふたりの赤ちゃんになって生まれてきました。
独りぼっちだったお星さま。
いまは家族に囲まれて、幸せにスヤスヤと眠っています。
新しい生命の誕生を、宙も地上も皆で祝って喜んだのでした。
―おしまい―
お読みいただき有難うございました!
このお話は、今月アルファポリス様の「第1回児童書大賞」に参加している「短編賞」https://www.alphapolis.co.jp/novel/790065991/31073779に収録するため、2022年に詩ジャンルで投稿した『空からこぼれた、星のお話』を童話に仕立て直しました。
久しぶりに過去作を振り返ったのですが、とても懐かしく、楽しく作業にホクホク(∩´∀`*)∩
男の子の貰った「位」って何だろうと思うのですが、お姫様が嫁ぐくらいなので、そこそこの身分を貰ったに違いない(笑)
男の子、一言もしゃべってない上に、兄妹は名前も出ていませんが…!
それを言ったら登場人物、誰も名前出ていませんが…!!
お話を楽しんでいただけましたら幸いです♪ヾ(*´∀`*)ノ




