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童話とか児童書ジャンル

黒猫もらいます

掲載日:2026/08/18

「だからぁ、黒猫がいたら、ハロウィンの写真がすっごく映えるじゃん?」

「でも、ドミニカ。猫を飼うのは大変だよ。安易に引き取ったけど、この先どう……」

「はあ!? あんた、誰に口答えしてんの!?」


 ドミニカの剣幕に、僕は手に下げたキャリーバッグを落としそうになり、慌てて抱きかかえる。

 危ない。中には猫が入ってる。落下させたら猫が怪我する。

 猫が身ひとつなら高いとこから落ちても、くるりと着地するけれど、バッグの中だとその柔軟性も生かせないはずで……。


「ちょっと、聞いてるの? セリオ。とにかくあんたは、あたしに逆らえないんだから、黙って言う事聞いてればいいのよ」

「……っ」


 パブリック・スクールの同級生ドミニカ。彼女の父親は、僕の父の雇い主、だ。

 社長令嬢である彼女と、住み込み庭師の息子の僕。

 その上下関係は幼い頃から続いていて、屋敷の中でも外でも、僕は召使いのごとく使われている。

 だから普段は彼女に意見することなんて、滅多にないんだけど──。


「でも、ご家族に相談もなく猫を連れ帰ったりしたら、旦那様や奥様がなんて言うか……」


 血統書のない黒猫。しかも成猫。

 ブランド好きなドミニカの家族は、きっと眉を(しか)めるだろう。

 もしドミニカが叱られたら、絶対、僕のせいだと言う。もしかしたら猫を押し付けられるかも知れない。


(どうしよう。猫は好きだけど、うちには飼う余裕なんてない……)


 暗い気持ちで(うつむ)くと、あざけるようにドミニカが(わら)った。


「そんな猫、今日のハロウィン・パーティーが終われば捨てるんだから、心配無用よ」


「ええっ!!」


「普通、猫や犬の譲渡は厳しい審査があるって聞くけどぉ。引っ越し間際の飼い主が急いでたおかげで、話が早かったわ。どうせ元飼い主はこの土地からいなくなる。黒猫を捨てたところで、気づかれることも、責められることもないわ」


生命(いのち)に対して、それは無責任だよ……」


 "猫譲ります"。

 黒猫を探していたドミニカが偶然手にしたチラシは、急な引っ越しで飼い猫を連れて行けなくなったおばあさんが作ったものだった。

 ドミニカはチラシの住所に行き、少しの会話の後、おばあさんの猫を貰い受けた。

 拍子抜けするほど短時間で、付き添った僕はびっくりしたのだ。

 そして今は、その帰り道。夕方からはパーティーだ。


「うるさいわね! アンタはさっさと、猫をパーティー会場に運びなさい! ハロウィンに黒猫、最高に映える演出だわ。ああ、楽しみ」


 恍惚と目を細めるドミニカに、僕は愕然とする。

 だから、(かご)の中で黒猫が、緑の瞳を光らせたことには気づかないまま。

 僕は猫に向かって(ささや)いた。


「大丈夫。いざとなったら僕がバイトを掛け持って、養ってやるからな」


 ドミニカのお()りに加えて、今のバイトもある。

 増やすのは不安しかないけど、僕もおばあさんと会った以上、猫に対して責任があるから……。簡単に捨てるなんて、出来るわけがない。



 ◇



 屋敷の一角で開かれた、ドミニカ主催のハロウィン・パーティーはすごく盛り上がり、バカ騒ぎ状態になっていた。

 飾り付けられた会場では、ハロウィンらしいグロい見た目の料理が並び、不穏な紫色のライトで照らされている。

 集まったドミニカの友人たち。


 ざわめく一角で。

 ドミニカが持ち込んだ黒猫は、さんざん写真を撮られた後、余興として追いかけまわされていた。



 フギャ──ッッッ!

 フシャ──ッッッ!



 壁を背に毛を逆立てる黒猫を、ドミニカとその友達が囲い込む。


「ははっ、もう逃げ場はないぞぉ」

「ねえ、あたし玉子を用意したの。猫にぶつけて、遊びましょう」


 その言葉にギョッとする。

(なんてことを言うんだ。もう限界だ!)


「やめろよ!」

「セリオ、あんたまた……。本気でぶつけるわけじゃないわ。驚かすだけよ」

「ふざけるな。猫が怯えるだろう! 動物虐待だぞ」

「大げさなこと言わないで。あんたを標的(まと)にしても良いのよ!」


 ドミニカは生卵を手に取り、猫に向かって投げつけた。

 僕は猫を庇うように間に入って。


 びしゃり!

 

 肩にぶつかった玉子が割れて、中身が流れる。

 その時だった。


「きゃああああああ!」


 ドミニカの声が恐怖に染まった。


(え?)


 彼女を見ると、さっき玉子を投げた腕に黒い毛皮が載っている。


(猫? ──じゃない。猫は、僕の腕の中だ)


 まるで猫そっくりの密集した黒い毛に、ドミニカが叫ぶ。


「何これ、何──! なんであたしの手に、突然こんなの()えるわけ?!」

(え? 生えたって?)

 意味不明な発言にドミニカの腕を凝視した時、すぐ近くから、しゃがれた声が響いた。


「まったく、(おろ)かしい話だねぇ。古今東西、黒猫は魔女の使い魔だって話は有名だろうに」


「おばあさん……!」


 いつの間にパーティーに来ていたのか。

 黒猫の元飼い主として会ったおばあさんが、黒いロングドレスで(たたず)んでる。まるで、魔法使いのローブ姿みたいだ。


「はあ? ちょっと、何勝手にヒトんちに入ってきてるのよ? 引っ越したはずでしょ!」


 猫をいたぶっていたところに元飼い主の登場は、さすがのドミニカも気まずかったらしい。

 逆上したドミニカが(ツバ)を飛ばすが、おばあさんは気に留める風もなく、言葉を続ける。


「このスペインではね、ハロウィン期間中、テラッサの街で黒猫譲渡は禁止なのさ。理由は、イベントのために猫を粗末に扱うから。その話を聞いて、まさかそんなバカはいないだろうと、念のため()()()()()()()()()()()──」


 白い前髪の隙間から、おばあさんの目がギロリとドミニカを(にら)みつけた。


「この街にも残念者が、()たようだねぇ」


 その声があまりに冷たく恐ろしくて、僕は思わず猫を抱きしめた。

("試した"って言った? どういうこと?)


 おばあさんの言葉に、ドミニカが目をつり上げる。


「あんた、頭おかしいの? ちょっと皆、何してるのよ。早くこのババアをつまみ出してよ」

 苛立つドミニカは周りを見て、「ヒッ」と息を()んだ。

 ドミニカの友達たちは全員、時が止まったように静止して、うつろな目でぼーっと虚空を見つめている。

 その目は誰も、おばあさんを映していない。


「ど、どうしたのよ?」


「ああ、無駄だよ。その子たちは今この景色を見れていない」


 おばあさんが言う。


「あ、あ、あ、あんた、何!?」 


「おや? 自己紹介がまだだったかい? 私は魔女さ。魔女会のまとめ役でね。魔女山(スガラムルディ)に居を構えてる」


 "スガラムルディ"。魔女が集うことで有名な、魔女の山。


「最近の集会でも、黒猫をまるで玩具のように扱う人間がいると、問題になった。魔女会としては対策に乗り出したわけさ」

「対策ですって?」

「魔女の猫を虐める身の程知らずを(あぶ)り出し、(しか)るべき罰を与えるってね」

「罰? 何の権利があって! 言っとくけど、あたしに何かあればパパが黙っていないわよ!」


「心配には及ばない。ほら、ドミニカ・アルベルダはちゃんとそこにいるからねぇ?」

「は?」


 ドミニカの間の抜けた声と、僕の驚きは同時だった。

 僕の腕の中にいたはずの黒猫が、いつの間にかドミニカそっくりの姿で座っている。

 僕を見上げる目が、神秘的な緑に煌めいた。

「!」


「あ、あたしが二人?」

「ふたりじゃない。だってお前は、しがない黒猫じゃないか」


 おばあさんが指さした途端、「きゃっ!」

 ドミニカの腕の毛皮が一瞬で、彼女の全身を覆い、服を残して一匹の猫が(あらわ)れた。


「ニャ!? ニャニャニャニャア!」


 (すみ)色の猫は、自分の姿を見るようにぐるぐる回って慌てている。


「もしかして、ドミニカが猫に……?」


 呆然(ぼうぜん)とする僕をよそに、おばあさんが低い声で宣言する。


「お前には黒猫として、一年間、私の元に()て貰うよ」


 おばあさんは、いつの間にかキャリーバッグを手に持ち、あっさりとドミニカだった猫を捕まえた。


「改心すれば、次のハロウィンには、ここに返してやろう。だが、性根が治らないようなら……。戻れるのは何年先になるかわからないねぇ?」

「ニャ──!!!!」


(どうしよう。僕は一体、どうしたら)


 情けないことに足はガクガク、頭は真っ白。まったく思考がまとまらない。

 そんな僕におばあさん──、いや、魔女が視線を投げ寄越(よこ)した。


「さぁて、そこの少年。いま起こったことを喋っても良いけれど、信じる人間はいないだろう。一年、うちの猫を頼んだよ。"いざとなったらバイトを掛け持って、養って"くれるんだろう?」


 おばあさんが面白そうに口角を上げると、凄みのある魔女から柔和な老婦人へ、ガラリと印象が変わる。

 だけど僕はヒヤヒヤだ。

(猫に言った言葉を聞かれてた!)


「──もっとも豪邸のお嬢様みたいだから、養う必要はないだろうがね」


 おばあさんの言葉に、僕の隣で"ドミニカ"が、にっこり笑った。


「仲良くしてね、セリオ」


(ちゃんとドミニカの声だ……!)

 どういう事なんだろうか、これは。僕はいま、夢でも見ている?


「じゃあこっちの猫は預かるよ」

 おばあさんの言葉に振り返ると、そこにはもう、魔女も、猫になったドミニカも居なかった。


 おばあさんが消えた後。

 ドミニカの友達たちはハッとしたように動き出し、しきりと首を傾げながらも解散して行った。翌日以降会った時には、パーティーでの出来事を覚えている者は誰もおらず。

 ただ黒猫を追いかけた面々は、なぜか動物が苦手になり、ネズミやウサギからも逃げるようになった。


 あの日以来、()()()()は以前の乱暴で奔放な様子がなくなり、その様子は善良で、"人が変わったようだ"と周りから評されている。


 人どころか。

 彼女は魔女の黒猫だし。


 その事実を僕だけが知っている。

 けれど時折、やっぱりあれは夢だったんじゃないかとも思えてくる。

 両親にも話してみたけど、笑われて終わったし。


 魔女のもとにいる本物のドミニカはどうしているんだろう。

 次のハロウィンで、戻って来れるのだろうか。


 わからないまま僕は今日も、ドミニカ(・・・)を学校に送るべく、手をつなぐのだった。




 ―おしまい―



 お読みいただき有難うございます!

 8月8日は世界猫の日、8月17日は黒猫感謝の日。

 8月ネコの日多いなぁということで、ハロウィン用に用意していたのですが、本日公開することにしました(∀`*ゞ)(※なお2月22日も猫の日)


 さて昨年、2025年10月から11月10日まで、スペインのバルセロナにあるテラサの街では黒猫の譲渡禁止期間が設けられたそうです。

 黒猫の悪質利用(儀式やいたずら)を防ぐためなんだとか。今年はどうなんだろう…?


 なお、この作品はアルファポリス様で現在開催中の「第1回児童書大賞」参加作品「児童書・童話―短編集―」https://www.alphapolis.co.jp/novel/790065991/31073779

に収録していますヾ(*´∀`*)ノ

 他のお話もありますので、良かったらのぞきに来てやってください♪

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普段は異世界恋愛が多いです!

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― 新着の感想 ―
………。ざまぁだった!(笑) でも玉子ぶつけようとしてたし、仕方ない(*´_ゝ`) もう戻って来れないカモ。ま、いっか♪←え?w それにしても、黒猫感謝の日とは(´⊙ω⊙`)! 猫系記念日多い、ってコ…
ふつつかな黒猫ではございますが( ˘ω˘ )
短編ありがとうございます ドミニカちゃんの人へ戻る条件は 「セリオが心からドミニカが戻って来てほしい」 と心から祈ることに違いない そして護って貰った黒猫(現ドミニカ)ちゃんは…… セリオくんが幸せに…
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