第八話 午後のひととき
そのあとルシルダ様は侍女を呼び、料理長に二人分のお弁当を作るよう頼んだ。
まさか本気でお弁当を持っていくとは思わず、私は慌てた。
「いいじゃないですか。料理長の作ったローストビーフのサンドイッチは絶品なのですよ?」
「え? ローストビーフ!? 食べたいです!」
「あはは。ルリ様は本当に食べることが好きですね」
「大好きです」
だってここの食事美味しいんですもの。
私が賛成したことにより、お弁当を持っていくことが決まった。
せっかくだからお城の外にある庭園で食べようということになり、ワクワクしながら待っていると、侍女がお弁当の包みを持って戻ってきた。
それを受け取り、お城の探検に出発した。
お城は広くて一人で探検したら確実に迷子になっていた。本当に、ルシルダ様がいて良かったわ。
王様がお仕事をする執務室や会議室。更には舞踏会を開く大きなホールなどを見せてもらい、いよいよ目的地である図書室に着いた。
室内は本の山で、一生かかっても読みきれないほどたくさんの本がずっしりと収納されていた。
私は大興奮で走り出しそうになったがなんとか堪える。
「凄い本の数ですね、ルシルダ様」
「王国中の本がここに集まっているからね」
「ルシルダ様はよく本を読まれるのですか?」
「勉強のために歴史の本などを読むよ」
偉い。さすが王子様ね。
「ルリ様はどんな本を読むんですか?」
「私は物語が好きなので、ファンタジーとかロマンチックな恋愛の本をよく読みます」
「物語……か」
ルシルダ様は苦笑した。
「私はあまり読まないな。現実にないことにはあまり興味が湧かないんだ」
「……」
そっかぁ。ルシルダ様はあまり空想するのが好きじゃないのかしら? 現実主義なのかもしれない。
そんなことを考えていたら、ルシルダ様がなにか思い出したのかクツクツと笑った。
「そう言えば、兄上もよく物語の本を読んでいるな。あの顔で恋愛の本が好きなんだよ? 笑ってしまうよね?」
「……」
私はルシルダ様の言葉にちょっと驚いてしまった。
ローランス様が恋愛の本を読んでいることに驚いたのではない。
ルシルダ様が、まるで恋愛の本を読んでいるローランス様をバカにするように笑ったから驚いたのだ。
……別に、誰がなにを読んだって良いじゃない……。
「ローランス様が恋愛の本を読んでもいいんじゃないですか?」
私の反論に、ルシルダ様は嫌な笑い方をした。
「まあ、良いんだけどさ。兄上には恋とか愛とか無縁だろ? あの顔じゃあ絶対好きになってくれる女性なんて現れないし。現れないから夢を見て恋愛の本なんて読んでいるのかもね」
「……」
なんか……嫌な言い方だな。
ルシルダ様はローランス様と仲が悪いのだろうか?
でも、兄弟ならこのくらいの軽口を叩くこともあるかもしれない。一概に仲が悪いとは判断できないわ。もしかしたら仲が良いからこんなことを言うのかもしれないし。
私が黙り込んでいるのには気が付かず、ルシルダ様はご機嫌で本棚をあさり、一冊の本を手に取った。
「これ……美しい淑女になるための礼儀作法の本だって。ルリ様、読んでみたらどうだい?」
「う、うーん。あまり興味がないかも……」
「ふふ……。そうだね。ルリ様はそのままでもとても可愛らしいからね」
可愛らしいと言われて、私は真っ赤になってしまった。だってこんな美しい人に褒められたのよ!? そりゃあ照れるでしょう!?……
私は照れ隠しにルシルダ様から本を受け取った。
「やっぱり読んでみようかな……?」
「うん。礼儀作法を学ぶことはいいことだよ」
「そうですね」
本当は物語が読みたいんだけどなぁ……。
でも、せっかくルシルダ様が勧めてくれたし、読んでみますか。
あまり乗り気ではないが、私はその本を借りることにしたのだった。
※※※※
図書室から出ると、お城を出てルシルダ様おすすめの薔薇園に向かった。
城のお庭に薔薇園があるなんて凄いわ……。
さすがは国を統べる王の一族ね……。
薔薇はとても美しく、うっとりするような良い香りが漂い、目だけでなく鼻でも楽しめた。
しばらく歩いていたら休憩できる場所があったので、そこでのんびりお弁当を食べた。
ローストビーフのサンドイッチはルシルダ様が言った通り絶品で、あっという間に食べ終わってしまった。
侍女を呼び、食後の紅茶を楽しんでいたら、ルシルダ様がニコニコ微笑んだ。
「今日はありがとう。とても楽しかったよ」
「私も楽しかったです!」
「私たちが結婚したら、こんな日々が待っているんだろうね」
『結婚』という言葉に、私はたじろいでしまう。
曖昧な笑みを浮かべていたら、ルシルダ様が私の手を握った。
「ルリ様……。私を選んで欲しい……」
「えぇ!?」
「きっとあなたを幸せにします……」
「……」
ルシルダ様って結構情熱的な方なのね。
私……照れちゃうわ。
でも、まだ「はい」とは言えない。
だって、ルシルダ様がどんなお方か、まだ全然分からないんですもの。
私は気まずそうにルシルダ様から目を逸らした。
「……ごめんなさい。まだ分かりません……」
「そうか……」
ルシルダ様は残念そうな表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「ならば、これからルリ様に好きになって貰えるよう、もっともっと頑張らなければ」
きゃーー!
こんな素敵な人にそんなこと言われたら、恥ずかしくて死んじゃう!
私は真っ赤になりながらポソポソと答えた。
「あ、ありがとうございます……。私も早く答えが出せるよう、頑張ります」
私の言葉に、ルシルダ様は美しい笑みを浮かべながらうなずいたのだった。




