第九話 朝のお散歩
お城に来て一週間が経った。
その間、ルシルダ様とはよくお話しするようになったけど、ローランス様との距離は全く縮まらない。
うーん……。どうやらローランス様は私と結婚する気がないみたいね。
だってもし結婚する気があったら、私のことをもっと知ろうとしてくれるはずだもん。
それなのにローランス様は私に全く話しかけてこない。これはもう……完璧相手にされてない!
それならそれでルシルダ様と仲良くすれば良いじゃないと思うかもしれないけど、私は嫌。
どうせならローランス様ともお話しして、ローランス様のことも知りたい。
それで、どちらの王子様と結婚するか判断したいのだ。
そのためにはローランス様と二人っきりでお話しがしたいわ。
なにか二人っきりになれるきっかけはないかしら?
お散歩にでも誘ってみようかしら?
「……」
いや、無理。
断られたら傷付くし、そんな積極的に動けない。
だって私前の世界でも、男の人とお付き合いしたことがないんだもの。
結局私はその日もなにも行動を起こせずいつも通りに過ごし、夜になって眠りについたのだった。
※※※※
次の日の朝。
私はいつもより早く目が覚めてしまった。
城中が静まりかえっている。きっとまだみんな寝ているのだろう。
キサーヌもまだ寝ているようで部屋には来なかったので、私は一人で着替えをした。
早く起きたのはいいけどこれからどうしよう? せっかくだから朝の散歩にでも行こうかなと思い立った。
そっと部屋を出て外に向かう。
朝の空気は爽やかで、とても気持ちが良かった。
私はご機嫌で城の周りを歩く。
薔薇園のお花も綺麗だったけど、私は道端に咲くひっそりとしたお花も好き。
そんなことを思いながら素朴な景色を楽しんでいたら、前方に休憩できるガゼボが見えてきた。
少し休もうと足を速めたところで、先客がいることに気が付いた。
——ローランス様だ。
ローランス様が椅子に座り、なにかやっている。
目を凝らして見ると、ローランス様の周りには小鳥がたくさん集まっていた。
ローランス様がさっと手を振ると、小鳥が一斉に地面をつつく。
あ。分かったわ。
小鳥に餌をあげているのね。
よく見ると小鳥はローランス様にとても懐いていて、肩や頭にちょこんとのっている。
微笑ましい気持ちになって来て、思わず声を掛けてしまった。
「おはようございます。ローランス様」
「!」
ローランス様はビクッと肩を震わせた。
それから私がいることに気付き、狼狽えたような声を上げた。
「ルリ様……」
「早起きして散歩をしていたら、ローランス様がいらしたので驚きました」
「そうですか。すぐ退きますのでここに座ってください」
そう言って立ち上がろうとしたので、私は慌てた。
「いえいえ。せっかく小鳥がご飯を食べているのに、邪魔しちゃ悪いです」
「……」
「隣に座ってもいいですか?」
私の言葉に、ローランス様はかすかにうなずいた。
小鳥とのひとときを邪魔しちゃ悪いかな? とも思ったが、ローランス様と喋れるチャンスは今しかないと思い、遠慮なく座った。
それでも小鳥は逃げなかった。
ローランス様の肩の上でキョトンと頭をかしげている。
「可愛い。小鳥、全然逃げませんね?」
「エサが貰えると思っているのです」
「私もあげたいです」
「……。どうぞ」
ローランス様はパンの耳を私に渡してくれた。
私はお礼を言ってからそれを受け取る。
それからパンの耳を小さく千切り、地面に撒いた。
小鳥が大喜びでエサをつつく。
それを見ていたら、とても楽しい気持ちになってきた。
「可愛いーー!」
「そうですね」
「ローランス様は毎朝こうして小鳥にエサをあげているのですか?」
「はい。私の朝の仕事なので」
「素敵です!」
「別に……。たいしたことではありませんよ……」
そこで会話は途切れてしまった。
本当は話したいことがいっぱいあるのに、上手く話せない。
ああ……私って結構口下手なのよね。
それでも小鳥のエサやりは楽しく、夢中で撒いていたら、ローランス様がポツリとつぶやいた。
「ルリ様も大変ですね……。知らない環境にいきなりやって来て、結婚しろなどと……」
「うーん……。まあ、最初は驚きましたが、今は前向きに考えています」
「そうですか。でも、ルシルダは良い男なので、きっとルリ様を幸せにしてくれますよ?」
「……」
ローランス様は、自分も結婚相手の候補だという自覚がないらしい。
はなから私がルシルダ様を選ぶと思い込んでいる。
「ローランス様は……私と結婚したいとは思わないんですか?」
ほ、ほら……!
だって結婚したら、次の王様になれるんでしょ!?
王様になったら理想の国づくりが出来る。
ローランス様には、そういう野心はないのかしら?
私の言葉に、ローランス様は自嘲気味に笑った。
「私を選ぶ女性など、この世にはおりませんから」
「……なぜ?」
「みにくいから……」
「私は顔で結婚相手を決めたりしません!」
ローランス様は、静かにこちらを見つめた。
「では……なにを判断にするのですか?」
「心です」
きっぱり言い切ると、ローランス様がちょっと驚いたように肩をすくめた。
あー! 顔が見えないって不便ねぇ。
ローランス様が今どんな表情をしているのか分からない!
「心……ですか。ルリ様は変わったお方だ」
「変わっていません! 実を言うと、私は迷っているのです。ルシルダ様も素敵な方だけど、あなたも素敵な方だから」
「わ、私も……!?」
「そうです。こんなに小鳥に好かれる男性が、悪い方なはずありません!」
「……」
ローランス様は頭を抱えてしまった。
もしかしたら怒ってしまったのかと思い、焦る。
「私の言葉……不快でしたか?」
「いや……照れているのです」
なんだ……。照れてるだけか。
ローランス様って、意外と可愛らしいお方ね。
私はなんだか可笑しくて、クスクス笑ってしまったのだった。




