第六話 楽しい時間
色々話したいと王様に言われていた私だけど、食べるのに夢中でそれどころではなかった。
デザートに差し掛かった頃、私のテンションはやっと落ち着いてきた。
それを見計らって、王様が話しかけてきた。
「ルリ殿。食事はお気に召したかな?」
「はいっ。とっても」
「そうか。それは良かった。では、少しルリ殿の世界について聞いてもいいかい?」
「はい」
私は王様に聞かれるがまま、日本について説明した。
話を聞き終わった王様は感心して「ふーむ。そんな世界から来たのか」と口ひげを撫でた。
次に口を開いたのはルシルダ様だ。
「ルリ様は素敵な世界から来られたのですね。この国に対してはどんな印象を受けましたか?」
「うーん……、皆さん優しいです。それと、食事がすごく美味しいです!」
私の答えに、ルシルダ様はクスクス笑った。
「それは良かった。我が国は、ルリ様の胃袋を掴むことには成功したわけだ。ならば、もっと美味しい料理を出さなければ」
ルシルダ様の言葉に、王様も「そうだなぁ!」と大笑いをした。
やだ、私。食いしん坊のイメージがついてる。
恥ずかしいけどその通りなので、私は照れながら笑った。
すると、今まで黙っていたローランス様が今日初めて口を開いた。
「寂しくはないのですか……?」
「え?」
「家族とか……帰りを待っている人がいるのでしょう?」
「……」
家族……か。
私が家族と呼べるのは、亡くなった両親だけだ。
親戚の叔父さんも叔母さんも家族とは呼べない。
いいえ……呼びたくないわ。
「家族は……いません。小さい時に、事故で亡くなったので」
「……っ。すまない。悲しいことを思い出させてしまったね……」
「いいんです」
私は気にしていないとアピールするために、ニッコリ微笑んだ。
だが、ローランス様はしょんぼりと項垂れてしまい、黙り込んでしまった。
本当に気にしてないのに。しょんぼりしているローランス様が気の毒でなにか面白い話をしなければと焦っていたら、王様が思いやりのこもった瞳でこちらを見つめた。
「ルリ殿……。ご両親のことは残念に思う。ルリ殿さえ良かったら、私たちを新しい家族だと思ってくれないか?」
「……」
「ルリ殿が息子たちのどちらかと結婚したら、いずれそうなるのだ。ご両親の愛には遠く及ばないかもしれないが、私たちもそなたを大切にする……」
「陛下……」
「お義父さんでいいぞ」
王様の優しい言葉に、私はぷっと吹き出してしまった。
「お義父さんなんて呼んだら、不敬罪で牢屋に入れられちゃう」
「そんなことはない。私はルリ殿にお義父さんと呼ばれたいのだ」
「あはは」
沈んでいた空気が和やかなものに変わった。
「でも、ありがとうございます。嬉しいです」
私がお礼を言うと、王様とルシルダ様はニッコリ微笑んだ。
それからも穏やかな夕食会が続いた。
王様はワインを飲んで上機嫌だ。
少し酔っているかな? と思ったところで、王様が踏み込んだ質問をしてきた。
「それでルリ殿。正直な話、息子たちのどちらを夫に選ぶ予定だ?」
私は飲んでいた葡萄ジュースをぶーっと吹き出しそうになったが、なんとかこらえる。
「ま、まだ分かりませんよ、そんな大事なこと!」
「そうかぁ。親の贔屓目もあるが、二人とも良い男だぞ? どちらを選んでも、ルリ殿は幸せになれる! 私が保証しよう!」
王様の言葉に、ルシルダ様が苦笑する。
「父上。飲み過ぎですよ」
「なんのこれしき! ルシルダはなぁ、明るくて民の人気も凄い!」
「へぇ」
「ローランスはなぁ、無口だが根は良いやつだぞ!」
「そうなんですか」
うんうん、納得。
確かにルシルダ様は明るい。しかも美しい。
この二つが揃っていたら、民衆に人気なのも頷けるわ。
ローランス様は無口過ぎて分からない……。
でも、さっき両親のことを話したとき、心を痛めているのが分かった。
それを見て、優しい人なんじゃないかな……と思った。
「ルリ殿がどちらを選ぶか楽しみだ!」
王様は楽しそうに笑い、グビーッとワインを飲み干した。
本当に、私はどちらの王子を選ぶのだろう?
まだ少し話しただけだからなにも分からない。
この一ヶ月間で、二人ともっと打ち解けられたらいいな。
そんなことを考えているうちに、楽しい夕食会は終わったのだった。
※※※※
心地よい疲れを感じながらお風呂に入り、寝る支度をしてからベッドに横になる。
キサーヌが穏やかな表情で「ランプを消しますよ?」と聞いてきたので、私はさっきの夕食会で疑問に思っていたことを質問する。
「そう言えばキサーヌ。この国に王妃はいないの?」
私の問いかけに、キサーヌはハッとした表情を見せた。それから言いにくそうにつぶやいた。
「王妃様は……亡くなりました……」
「え? そうなの? いつ?」
「王子たちが幼い頃です……」
「そうなんだ……」
ローランス様……。
私の両親が死んだと聞いたとき、悲しそうだった。
もしかしたら、ローランス様は亡くなったお母様のことを思い出していたのかもしれない……。
そんなことを考えていたら、キサーヌがランプを消した。
「ルリ様……。おやすみなさい」
「うん……。おやすみ、キサーヌ」
ローランス様もルシルダ様も、お母様を亡くして寂しかったろうな……。
私は二人の王子を自分に重ねて、少しだけ悲しくなったのだった。




