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第五話 夕食会

 さあ! お城生活の始まりよ!

 まずは中を探検したい。

 先程王様と話したとき、城の中は自由に歩き回っていいとお墨付きをもらったので、私は張り切っていた。


「キサーヌ。ちょっとお城の中を探検してくるね!」


 さっさと部屋の外へ出ようとする私に、キサーヌが慌てて追いかけてきた。


「お待ちください! まずはお召し物を変えるよう、陛下から言われております」

「服ぅ?」


 服なんてなんでもいいじゃないと思ったが、実は私はここに来てからずっとスーツ姿なのだ。

 だって会社帰りに召喚されたんですもの……。仕方ないじゃない。

 ……でも、いつまでもスーツ姿だったら変よね。

 郷に入っては郷に従えと言うし、こちらの格好をした方が自然ね……。


「分かったわ。着替える」

「良かった……。では、お着替えの手伝いをさせていただきます」

「そんなのいいわよぉー」

「ダメです。これも仕事ですので」


 まあ、仕事なら仕方ないわね……。でも、服ぐらい自分で着れるのに。

 ちょっと嫌だったがキサーヌに手伝ってもらいながら着替える。

 服は、白くてフワフワしたワンピースのようだった。

 意外とシンプルだ。ゴテゴテした宝石やコルセットなどを着けられたらどうしようと思っていたが、杞憂(きゆう)に終わったようだ。

 着替え終わるとひとまとめにしていた長い髪を下ろした。

 丁寧に(くし)を入れてもらい、最後に銀の髪飾りを着けてもらったら、完成。

 姿見鏡の前でクルクル回りながら自分の姿を確認する。


「変じゃない?」

「とても素敵です! 異世界からやって来た女性には、この純白のドレスを着せるのが我が国の慣習なのです!」

「あ、そうなの」


 良かったぁ、動きやすそうな服で!

 そんな慣習なら大歓迎よ。

 私はご機嫌になり、ニコニコと姿見鏡の前でポーズを決めた。

 さて、お洋服も着替えたことだし、今度こそ探検よ! と意気込んでいたのだが、またここで出鼻をくじかれる。


「では、ルリ様。これから夜の夕食会に向けて簡単なマナーを学んでいただきます」

「ゆ、夕食会!?」

「はい。陛下や王子たちも同席するので。本当に簡単なマナーですのでご安心ください」

「えー!? 嫌よ! ゆっくり一人で食べたいわ!」

「そんなことをおっしゃらずに。皆さんルリ様とお話ししたいのですよ。ちなみに今夜は王族だけの夕食会ですが、後ほど貴族様を集めた舞踏会も予定しております」


 ぶっ……舞踏会ですって……!?

 私は目の前がクラクラした。

 夕食会だけでも緊張するのに、そんなのまであるの!?

 ああ……やっぱり私……この世界でやっていけないかも……。


「帰りたい……」


 思わず気弱な言葉をつぶやいてしまったが、キサーヌはさほど気にした様子もなく、フルフルと首を振った。

 

「ダメです。さぁ、まずは美しいお辞儀の仕方から!」

「いやーーー!!」


 むんずとキサーヌに腕を掴まれて、悲痛の叫びを上げる私なのだった。


※※※※


 夕食会の時間になった。

 キサーヌに徹底的にマナーを叩き込まれた私は、特に失敗することもなく、優雅に椅子に座った。

 周りにはすでに王様や王子たちが着席している。

 相変わらずルシルダ様は輝いているわね。さすが太陽の王子と呼ばれているだけあるわ。

 ローランス様は……と。

 相変わらず仮面姿ね。変わりなし。

 

 ふーん。王族三人、プラス私の食事会ってわけね。

 でも、王妃はいないのかしら? 普通こういう席には王妃も参加するものだと思うんだけど……。

 変なの。あとでキサーヌに聞いてみよう。


 そんなことを考えていると、王様がニコニコと口を開いた。


「ルリ殿。よくぞ参られた。ルリ殿と色々話がしたかったのだ。気を楽にして、食事を楽しもうではないか!」

「はい。もうお腹ぺこぺこだったんです」


 私は王様の言葉はそっちのけで、テーブルの上にのった料理に釘付けだ。


「ふふ。そうか。たくさん食べておくれ。では、夕食会を始めよう!」


 王様の号令のもと、私は料理に手を付けた。


 美味しいー!!

 なにこれ!? お肉柔らかっ!


 私は両親が亡くなってから、あまり良い食事をしてこなかった。

 親戚のおばさんは私に残飯や腐った食べ物ばかり与えていたし、就職してからもお金が無かったので質素な食事ばかりしていた。

 だからこんな豪勢な食事は初めてだったのだ。

 失礼に見えない程度にガツガツ食べていたら、ルシルダ様がニコリと笑った。


「ルリ様はとても美味しそうに食べるね。見ていたら私までお腹が空いてきたよ」


 王様もニコニコうなずいた。


「本当だな。さあ、どんどん食べておくれ」

「はいっ」


 王様たちの目も忘れて、口いっぱいにふわふわのパンを頬張る。

 幸せー!! 異世界に転移して初めて良かったと思えたわ!

 あれだけ嫌がっていたのに、この変わりよう。

 だって食事が美味しいことって、私にとって最も大切なことなんですものっ。

 

 そんなことを考えながら、私は大いに食事を楽しんだのであった。

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