第三話 二人の王子
しばらくすると神殿長がガチャリとドアを開け、顔を覗かせた。
「ではルリ様。よろしいですね?」
「は、はいっ」
あまりに緊張して声が裏返ってしまった。
そんな私に苦笑しつつ、神殿長は二人の男性を中に入れる。
一人目はなんとも判断しがたいわ。
大柄で黒い髪を一つにまとめている。
それはいいのよ。問題は顔よ。
顔に仮面を付けているの。
だからどんな顔や表情をしているのか分からない。
年齢も不詳だし、なんだか不気味だわ。
そして二人目。
こちらは童話から出てきたような綺麗な王子だった。
金色のさらさらの髪に青い瞳。
目はくっきり二重で鼻筋はスッと通っている。
年齢は二十代前半と見たわ。
表情が明るく、私と目が合うとニコリと微笑んでくれたのでドキドキしてしまった。
私が困惑しながら見つめていると、神殿長が得意げに二人を紹介してくれた。
「ルリ様。こちらのお二人が国王の血を引いた王子たちです。まず、第一王子のローランス様です」
仮面の男性が一歩前に出て、私に向かって会釈をした。
「初めまして。私はローランスと申します。お会いできて光栄です」
光栄と言う割には声が沈んでいて、全然嬉しそうじゃない。
私はぎこちなく笑いながら、ペコリと頭を下げた。
「こ、こんにちは。ローランス様」
それ以上何を言っていいか分からず固まっていると、話は終わったとばかりにローランス様が一歩下がった。
続いて神殿長が次の人を紹介する。
「そしてこちらが第二王子のルシルダ様です」
今度は金髪の男性が前に出て、私に会釈をする。
それから眩しい笑顔で自己紹介をしてくれた。
「初めまして、ルリ様。私はルシルダと申します。ルリ様とお会いできて嬉しいです」
「こ、こんにちは。ルシルダ様」
「異世界に召喚されただけでも大変なのに、いきなり私たちのどちらかと結婚しろなんて、ルリ様も困惑してらっしゃるでしょう?」
「は、はい……」
「こちらの都合で申し訳ございません」
「……」
「ですが、ルリ様はこの国の宝なのです。決して不幸には致しませんのでご安心を。私はルリ様がこの国で幸福な人生を歩めるお手伝いが出来ればと思っております。どうか悲観なさらず、前向きに結婚についてお考えください」
「……はい」
それからルシルダ様はニッコリ微笑み一歩下がった。
二人の王子が話し終わったのを見計らってから、神殿長が口を開いた。
「どうです? ルリ様?」
「はい……。あの、お二人は兄弟なんですね?」
「そうです」
「お二人とも、あまり似ていないのですね」
第一印象としては、
ローランス様は静かなお方。
ルシルダ様は明るいお方だと思った。
神殿長は私の言葉にニコリと顔を綻ばせた。
「そうですね。お二人とも違うタイプです。ローランス様は民衆から『月の王子』と呼ばれています。反対にルシルダ様は『太陽の王子』と呼ばれています。二人とも真逆の魅力があり、素敵な方々でしょう?」
「そ、そうですね」
「それでルリ様は、どちらの王子をお選びですか?」
えー!?
もうどちらの王子がいいか決めなきゃいけないの?
まだ、二言三言しか話してないじゃない!
そんなんで未来の旦那様は決められないわ。
私は困ってしまい、二人の王子の顔を交互に見比べた。
仮面を付けたローランス様の表情は分からないけど、ルシルダ様は自信に満ちあふれてニコニコしている。
うー! 分からない!
もっと時間を掛けて決めたいわ!
だって結婚は、一生の問題ですもの。
しばらく悩んだ私だが、結局答えは出なかった。
そのことを正直に神殿長に伝える。
「すみません……。出会ったばかりなので、分かりません……」
私の言葉に、神殿長とルシルダ様は「え!?」と同時に声を上げた。
「もっと……時間を掛けて決めたいです……」
神殿長は戸惑った表情で答えを聞いていたが、私がそれ以上なにも言わないでいると、なにか決意を固めたのか、一人でコクンとうなずいた。
「分かりました。では、一ヶ月の猶予を与えます」
「一ヶ月……ですか?」
「そうです。これからルリ様には、一ヶ月王子たちの住むお城に滞在していただきます。そこで交流を深めて、どちらの王子を選ぶか決めてください」
一ヶ月……。
長いのか短いのかすら分からない。
私は果たしてその期間で結論を出せるのだろうか?
分からないけど、問題が先延ばしになったことにホッとしてしまう。
「分かりました。では、そのように致します」
「ルリ様は思慮深いですね。正直、すぐに決まってしまうかと思ってましたよ」
神殿長はそう言って苦笑した。
「どういう意味ですか?」
私が不思議そうに尋ねると、神殿長がぽりぽり頬を掻いた。
「いやぁ……その……」
言葉を濁す神殿長に向かって、先程まで黙っていたローランス様が口を開いた。
「私も神殿長と同じ意見だ。ルシルダを選ぶと思っていたから困惑している」
「いやいや、そんな……!」
「いいのだ。みんなルシルダを選ぶと思っているぞ? 私ですらそう思う」
「いや、その……。わはははは! とにかく、一ヶ月後にもう一度ルリ様に確認しましょう!」
神殿長が笑って誤魔化したので、その話は終わった。
なんでルシルダ様だと思ったんだろう?
顔が良いから?
でも、男の人は顔じゃない。心だと、私は思うのよ。
とにかく、一ヶ月後にどちらの王子と結婚するか答えを出さなければいけなくなった。
はあ……。
私はこれからお城に行かなければいけないのね。
なんだか色々不安だわ。
私は先のことを思い、憂鬱な気分になったのだった。




