第二話 チート能力
神殿長に案内されて別室に入った私は、勧められるがまま椅子に座った。
椅子の前にはテーブルがあり、美味しそうなお菓子とティーセットが置いてある。
そういえばお腹空いた……。まだご飯を食べてなかったのよね……などと思っていたら、神殿長が「どうぞお召し上がりください」と言ってくれたので有り難くいただくことにした。
紅茶は神殿長が直々に淹れてくれたので、それを飲みながらパクパクとお菓子を食べる。
元気にお菓子を食べる私を見て安心したのか、神殿長がニコニコと口を開いた。
「お口に合いましたか?」
「はい! とっても美味しいです」
「良かった……」
そう言って神殿長は私の対面に座った。
「それでは、あなた様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「私は米田瑠璃と言います」
「ルリ様ですか。素敵なお名前ですね」
「ありがとうございます」
お腹がいっぱいになったら、少しだけ落ち着いてきた。そうよね。クヨクヨ悲観したって仕方がないわ。
それよりも、これからのことを前向きに考えよう。
そんなことを思っていたら、神殿長が再び口を開いた。
「異世界からいらしてさぞお疲れでしょうが、今後の流れをお話ししても宜しいですか?」
「うう……。あまり聞きたくない……。ずっとここにいてはいけないんですか?」
少し話しただけだけど、神殿長は優しい人のような気がする。外に出て新しい世界で揉みくちゃにされるより、ずっとこの部屋にいて、神殿長とだけ接していたい……。
「残念ですが、それは難しいのです。何故なら隣のお部屋に、王子たちがお待ちですので……」
「えぇ!?」
やだー! もう王子様とご対面するの!?
この世界に私が召喚された理由は、王子と結婚するためだとさっき説明を受けた。
だからいつか王子様と対面しなきゃいけないと思っていたけど、まさか転移されたその日に会うとは思わなかったわ!
「す、少し待ってもらえますか? 心の準備が……」
「もちろんです。ルリ様のお心が落ち着いてからで良いですよ」
「はい……」
私は紅茶を一口飲み、ふうーっと息を吐いた。
王子様を待たせているなら、あまりゆっくりも出来ないわ。とにかく落ち着かなくては。
私は何度も紅茶を飲み、ふうふう深呼吸をした。
こういうとき、物語の主人公ならどうするのだろう?
私は小説が好きなので、異世界転移した主人公の本も読んだことがある。
確かその主人公は転移して、チート能力を手に入れたわ。その能力で、どんな困難も楽々と乗り越えてみせるのよ。
うーん……。私にもチート能力が備わっていないのかしら? ただの社会人がなんの能力も無しに異世界転移するってハードモードすぎるでしょう?
なにか……なにか私にもチート能力を……!
そんな思いを込めて神殿長に質問する。
「あ、あの……」
「はい?」
「一応確認なんですが、異世界転移したことにより、私に特別な力が宿るとかないんですかね?」
「え?」
「だってこれじゃああまりにも私の人生ハードモードじゃないですか……!」
縋るように訴えると、神殿長はキラキラ目を輝かせて叫んだ。
「おお! さすがはルリ様です! いつご説明しようか悩んでおりましたが、ルリ様の方からお話を振ってくださるとはっ」
「え!? じゃあ、あるんですか!?」
「はいっ。ルリ様には特別な力が宿っております!」
やったぁー!! 私は喜びのあまりバンザイしそうになったが、なんとかこらえる。
「どんな能力なんですか!?」
「それは、まだ分かりません」
「へ?」
高揚した気持ちが一気にしぼんだ。
まだ分からないってどういうこと?
「ルリ様のお力が目覚めるのは、王子と結ばれたときです。その時までは、どんな能力が備わっているのか分からないのです」
「え……? 結ばれるって、つまり?」
「初夜を迎えた後ということですね」
「……」
しょ……初夜ってエッチした後ってこと!?
えぇ……? まだ対面すらしてないのに、そんな生々しい話はちょっと……。
私のテンションがだだ下がるのとは反対に、神殿長は大興奮だ。
「歴代の召喚された方たちもそうでした! ちなみに前回のお方は千里眼に目覚めました! その能力により、モラリナ王国は更なる栄華を極めたのです!」
「……」
な、なんでそんなタイミングで新しい能力に目覚めるのよ! どうせなら、転移直後に目覚めてよ!
私がガックリ項垂れていると、興奮したことを恥じるように、神殿長がこほんと咳払いをした。
「では、緊張が解けたようですし、そろそろ王子たちをお呼びしてもよろしいですか?」
いつまでも待たせるわけにはいかないわね。
そろそろ覚悟を決めなきゃ。
「わ、分かりました……。呼んでください」
「良かった。ちなみに王子は二人おりますので、気に入ったお方を選んでください」
そう言って神殿長は王子様を呼びに、さっさと部屋を出て行ってしまった。
ちょ……ちょっと待ってよ!?
王子様って二人いるの!?
「そういうことは早く言ってー!」
私は神殿長が出て行ったドアを見つめながら叫んだのだった。




