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第一話 異世界転移

 仕事から自宅に帰る途中に、私は異世界に転移された。


 びっくりしたわ。

 だって夜道を歩いていたら、いきなり地面が光だして円形の魔法陣のようなものが浮かんできたんだもの。

 逃げようとしたのだけど、ずぶずぶ足が沈み込んでしまい、出来なかった。

 それから地面に頭の先まで沈み込み、気付いたらファンタジーの世界に出てくるような真っ白な建物の中にいた。

 私の目の前にはこれまた真っ白な服を着た初老の男性が(ひざまず)いていた。

 周りにも同じような服を着た人達が立っていて、皆あんぐりと口を開けて私を見ていた。

 初老の男性は跪いたまま、私に声を掛けてきた。


「よくぞお越しになりました。わたくしはこの神殿の神殿長を務める者です」

「そ、そうですか……。それよりここは何処なのですか!? 私、さっきまで普通の道路歩いてたんですけど!?」


 私が大慌てでまくし立てると、神殿長はゆっくりと話し始めた。


「落ち着いてください。一つ一つ説明しましょう。まず、ここは異世界です。ユーダ国王が治めるモラリナ王国と申します。それで、あなた様は私たちが召喚して元の世界からこの世界に転移なさったのです」

「転移!?」

「そうです。神のお導きにより、あなた様はお越しになりました」

「はぁ!? どういうこと!?」


 私の疑問に、神殿長が丁寧に答えてくれた。

 要約するとこうだ。


 ここはユーダ国王が治めるモラリナ王国という。

 この国ではニ百年に一度、異世界から女性を召喚する。

 ちなみに呼べる女性は神殿長が選べない。神のご意志で決定するそうだ。

 それを聞いただけで目眩がしたのだが、神殿長は更に驚くべきことを言った。

 なんと、召喚された女性は、王子と結婚するしきたりがあるらしい。

 なにそれ!? なんでそんなしきたりがあるのよ!  問いただすと、神殿長は(おごそ)かに答えた。

 なんでも異世界からやってきた女性とこの国の王子が結婚すると、モラリナ王国に二百年の栄華が約束されるんですって。

 信じられないことだけど、千年も前に、この国の王様は神様とそんな約束をしたらしい。

 それを信じたこの国の人達は、何百年も前からこうやって女性を召喚してきたんですって。


 信じられない。神様って本当にいるの!?

 この国の人達は二百年ごとに女性を拉致して王子と結婚させてきたの!?

 言いたいことが山程あったのでその全てをぶつけると、神殿長は困ったような表情をした。


「申し訳ございません。ですが、これも神のご意志なのです」

「なにがご意志よ! そんなの知らないわよ! それより元の世界に帰してよ!」

「残念ですが……。呼び寄せることは出来ても、戻すことは出来ないのです……」

「つまり?」

「あなた様は、二度と元の世界に帰ることが出来ません……」

「そんな……!」


 私はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


 ……やっとあの家から出られたのに。

 仕事も決まり、これからってときに……。


 私は幼い頃両親を事故で亡くしたのだ。

 それから親戚の家に預けられたのだが、待遇は悪く、虐められながら育った。

 高校卒業と同時に家を出て、小さな工場で働くことが決まった。アパートも借りて、細々だけど幸せな生活を送り始めていた。

 そんな矢先に異世界に転移されたのだ。

 元の世界に悔いが残らないと言う方が無理だ。


 ショックで項垂(うなだ)れる私に、神殿長が気の毒そうに声を掛けてきた。


「こちらの都合で申し訳ございません。その代わり、あなた様には、なに不自由ない生活を保証します。あなた様はこの国の宝です。大事に致しますので、どうか絶望なさらないでください」

「……。私の前に召喚された女性はどうなったの?」

「もちろん王子と結婚し、幸せな生涯を歩まれました。今は王家の墓でお眠りになっております」

「……」


 まあ、王様と結婚出来るなら不幸ではないわよね。

 少なくとも命の保証はされている。

 でも、これからは異世界で生きてくださいなんて言われて、すぐに「分かりました」とは言えないわ。


 帰りを待ってくれる人は誰もいないけど、やっぱり元の世界に帰りたい……。

 元の世界には読みかけの本がある。昨日買ったコンビニスイーツも食べたかった。見たいドラマもあったのに……。


 元の世界への未練と、新しい世界で上手くやっていけるかの不安で、私はポロポロ涙をこぼした。


「私……私……」

「おお。泣かないでくださいませ」


 私が泣いたことにより、神殿長や周りの人たちも涙目になった。

 それを見て、この人たちはそんなに悪い人じゃないと思った。


「とにかく、別室に休める場所を用意しております。そこで少しお休みください」

「……。分かりました……」


 私は神殿長に手を引かれながら、別室に移動した。


 私……これからどうなっちゃうんだろう?

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