第四話「心なき敵、胸弾ける覚悟 第三回」
【〇〇四 〇三 お使いロボット】
カーミルが勝手に愛称を付けているこれらお手伝いロボットは星間移動船には必須の備品となっている。
船内の省人化には欠かせないものであり、物の運搬はダメージコンロールに重要な役割を果たす、乗組員たちの大事な相棒である。
なお、カーミルは技術班に「にゃーんって鳴かせて欲しい」と頼んでいるらしい。
実装される日はくるのか!?
【第四話 心なき敵、胸弾ける覚悟 第三回】
食事を終えた心地よい満腹感も手伝ってか、体には疲労の重みがきた。
「久しぶりの実戦がこたえたか。軽い筋トレは続けていたんだが、それくらいじゃナマっちまうものだな」
そうは言ったが、少しの嬉しさのようなものもあった。いや、嬉しいんじゃない、これは満足感のようなものだ。また全力で戦車を動かせたこと、アイリスとシリンダーを、カーミルとこのローズリンクを守れたことに、俺は満足感を覚えている。
この満足感のまま少し寝るのも悪くないと思えたが、その前に確認しておきたいことがあるのを思い出した。
「食ってすぐ寝るのも抵抗あるしな」
そう自分に言い、俺は格納庫へと向かった。途中、疑似重力区画から無重力区画へと入る。すると、俺のうしろに食堂で見かけたロボットがついてきていた。頭頂部には『五』の番号がある。
「おまえはなんて呼ばれてるんだ?」
そう呼びかけてみたが、応答はない。会話はできないのだろうか。
「なにか運ぶんなら先に行っていいぞ」
「ピッ」
今度は電子音で返事をした。そして立ち止まった俺の横を通り、先に格納庫の方へ向かう。
俺はそいつのあとを追うようにして格納庫へ向かった。
「こいつ……階段はどうやって降りるんだ?」
見たところ床にくっつくタイプのタイヤかなにかで走っているようだが、階段はどうするんだろうか。無重力に任せてスラスターで姿勢制御しながら移動するのか?
そう思うと興味がわく。そして階段にさしかかると、このお使いロボットは立ち止まった。どうするのかと思ったら、胴体左右からアーム? 脚? のようなものが出て、それを使って階段を降りていく。スラスターでの姿勢制御ではなかった。
「すごいなおまえ」
感心していると、後からもう二台(二匹?)がやってくる。
「なんだなんだ!?」
俺を追い越して先の五号機のように階段を降りていく。
あとを追うように階段を降りると、お使いロボットたちは格納庫の真ん中に集まっていた。そこにはマッシュがいる。
「おいっ、飯が届いたぞ!」
マッシュがそう言うと、複数の作業員たちがお使いロボットの周囲に集まり、胴体からカレーの乗ったトレーを取り出していく。
「なんだ、食事を届けに来たのか」
見るとマッシュもトレーを持って小さい椅子に座っている。俺はそこに行った。
「やぁマッシュ」
「おう大尉。大尉はもう食ったのか?」
「あぁ、先にいただかせてもらったよ。食堂で食わないのか?」
「今日は残業でね。こういう日は運んでもらうんだ」
「なるほど、大変だ。おかげで船も無事なわけだから感謝しないと」
「ははは、お互い様よ。あんたやカーミルが戦ってくれなかったらもっと悲惨なことになってたさ」
マッシュはそう笑いながらカレーを食べはじめる。
「どうだ、お嬢ちゃん方とは上手くやれそうか?」
「変に期待されててプレッシャーを感じるよ。俺はそうできた人間じゃないんだけどな」
「司令が説明していたんだ。歴戦の英雄で世界最高峰の戦車乗りだ、ってね」
「そいつは迷惑な話だ」
「そう言うな、がははは!」
笑うマッシュのとなりの床に俺は座り込んだ。周囲を見ると、俺のように床に座ってカレーを食っている作業員も少なくない。
「聞いておきたいことがあったんだ」
「おう、なんでも聞いてくれ。まぁわしはそんなに物知りじゃないがね」
「リリアムの個人装備はどんなものなんだ?」
「ん? 聞いてなかったか。真っ先に説明されてもいいものだろうに。リリアムの個人装備は『リリアムシールド』という、『オートランダー』のシールド機能を向上させるものだな」
「シールドか……」
防御に振った装備、ということのようだ。
「なんだか攻める姿勢のリリアムとは対照的だな」
「そうか? わしはリリアムらしいと思っているぞ」
「そうなのか?」
「あぁ。まぁわしも詳しくお嬢ちゃん方を知ってるわけじゃないが、リリアムはICOたちのリーダーとして育成されたそうだ。それで『オートランダー』の調整にもよく来てくれていたんだが……リリアムはな、ああ見えて自分を犠牲にする覚悟ができている」
「それは――」
少し意外に思えてしまった。どこか飄々としたリリアムはなにごとも上手く乗り越えていくようなタイプに思えていた。
「なに、率先して犠牲になると思っているという意味じゃあないぞ。リリアムは自分の価値、ICOの価値を深く理解している。その上で、任務の遂行に際してやむを得ず犠牲を払わなければならいと思った時は、率先して立候補する、そういう覚悟だ」
それは責任のある立場のものの覚悟だ。
「ああ見えて気負ってるんだよ。だから大尉、あんたが来てくれて安心しているんだ。やっと頼れる人ができたんだ」
「そ、そうなのか?」
「そうだとも。ICOはな……兵器だ。だが、孫のようにも思える。わしのようなメカニックが感情を持って接するのはよくないと思うがな」
マッシュはカレーをかき込む。
「その気持ちはわかる。どう見ても人間だ」
「だから大尉、よろしく頼む」
真剣な顔をしていた。その短い言葉には、マッシュの思いが込められている。
「……わかった」
その重さを受け止めて返事をすると、マッシュはにこりとした。
「これで安心して飯が食える」
マッシュにどんな家族がいて、どんな人生を歩んできたのかはわからない。聞くのも無粋だ。だが、ICOたちに対しての気持ちはよくわかった。そして、マッシュへの信頼度も深まった。
「大尉も、少し休んでおいた方がいいぞ」
「あぁ、もう戻るよ。忙しいところに来てすまなかった」
「そんなことはないさ。また来るといい」
「あぁ」
マッシュに手をあげて挨拶し、格納庫をあとにする。作業員たちの中には食事を終えて持ち場に戻りはじめている人もいた。
戦場ではいつなにが起こるかわからなかった。だから、休める時に休むのも大事なことだった。
部屋に戻り、ベッドの上を片付ける。
「そういや……」
部屋の家具は無重力対応しているが、部屋や居住区画には重力がある。
「案外いい輸送船なんだな」
そう言いながらベッドに体を投げる。そして気づく。
「枕が……ないな」
そういうベッドなのか、忘れているのか。あとでリリアムにでも聞いてみるとしよう。
しかし――。
「枕がなくて寝られないほど上品な人間じゃないんでね」
目を閉じると、グッと体の重みを感じる。思っていたよりも疲れていた。そして、眠気はすぐにやってきた。




