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第2話 旧世界より②

「全く、人が善意で起こしに来て上げたというのに、アンタという人間は……」


学校への道のりを肩を並べて歩んでいる最中。

首をそっぽに向けながら、ふんっと呆れと怒りが混じった鼻を鳴らす日葵。

そんな彼女の様子に、流石の俺も居た堪れなく……。


「本当に悪かった。マジでもう今後一生セクハラしない事を神様日葵様に違うから機嫌を治して欲しい!!」


必死に懇願する。

これでもダメだと言うのなら、俺の人生史上これ以上無いって程の誠意のこもった完璧な土下座をかますしかないわけだが……。


「って言いつついっつもやってるよねアンタ……」


「やってねぇよ悪質な印象操作やめてくれよ!?」


流石にいつもはしてないぞ、流石に。

というより、毎日セクハラ三昧な人間とか死んでもなりたくねぇからなまだ!?


「嘘。いっつも心の中でエロい妄想垂れ流してるじゃん」


「妄想するのは自由だろうがッ!!てか、読まれてたのかよ!!恥ずかしっ」


さっきも言ったが、この一ノ瀬日葵という少女は“異能力”と呼ばれる特殊な力を持っている人間である。


異能力とは、例えば火種の無い場所で火を起こし、あるいは風を操り、またあるいは氷を生成したり――そんな現象を引き起こせる力の総称である。

日葵の場合は、相手の思考や心の声を聞く事の出来る知心どくしんと呼ばれる異能力だ。


そんな異能力には、ある一つの共通点が存在している。

それは――異能力は、一個人に一種類しか宿らないというものである。


まぁ簡単に言うなれば、知心どくしんという力に加え、火を起こす事が出来る能力も同時に宿る……だなんて事はあり得ないって話だ。


――――そして、異能力を持つ人間は古来より、“能力者”と。

そう呼称されている。


が、その反対に、異能力を持って生まれない存在も中には居るわけで……。

その者は“無能力者”と――そう呼ばれている。


……そう。

何を隠そう、それが俺である。


「しっかも、アンタの妄想に登場する人間はこぞって巨にゅッ!?」


「やめろ日葵!!そこまで俺の妄想事情を赤裸々に語られたら無能力者から無敵の人にジョブチェンジしちまう!!」


俺は咄嗟に日葵の口を手で塞ぎ、これ以上余計な言葉を言わないようにさせる。

別に家中なら良いのだが……普通に同じ高校の人間も登校しているような場所でそんな事を言わないでほしいものだ。


「分かったよ。帰りにアイス奢るから。あと、ドーナツも追加で」


俺は苦肉の策である『日葵を美味しい食べ物でお腹も心も満たそう大作戦』を決行する。


「ほんと!?言質取ったからね!!」


すると、分かりやすいくらい簡単に反応を返してくれた。

やはりイマドキ女子、チョロいぜ。


「じゃあじゃあ、アイスは3段ね。それで、ドーナツはイチゴと、ポ〇デリングをそれぞれ2個ずつかな~。後々――」


「待て待て待て待ってください。え?もしかしてですけど、それ全部お一人でお食べになる気で……??」


恐る恐る、買いたいものを連ねる日葵に問いかける。


「当然」


すると、日葵は屈託のない笑顔を俺に向け、俺の財布に死刑判決を下した。

しかし、数を指定しなかった俺の負けであるからして――しょうがないので男天護、ここは腹をくくる所存だ。


「後、チュロスも3個は――」


「勘弁してください」


ごめんやっぱ前言撤回。

何だコイツ、どんだけ食い意地張るんだよ、最早一種の異能力だよ。


「まっ、たまには悪くない……か」


思えば、日葵にはお世話になりっぱなしである。

わざわざ起こしに来てくれたりといい、こうしてなんやかんや俺と登下校してくれる所といい……たまには、恩返しが必要だろう。俺は恩返し系男子なんだ(?)


「あ~あ。放課後が楽しみだな~♪」


だから、本気で楽しそうな彼女の期待に応えてあげよう。

……さよなら、俺の財産。


「…………ん?」


刹那。

何者かの視線を一瞬だが感じた俺は、後ろを振り向く。


「どうしたの?」


そんな俺の様子に、日葵があたまにはてなを浮かべながら問いかけてくる。


「なんだか、視線を向けられてるっつうか、見られてる?感じが一瞬したんだよな」


「それただの自意識過剰だから気にしなくてもいいかもだね」


「さてはお前俺の事嫌いだろ!?」


「だって女の敵だし」


おい待て、日葵の中での俺の評価って女の敵なの?悲しいんだけど?ただ心の中で胸の事をイジっただけだよ?妄想に至ってはコイツが勝手に覗き込んだ結果だよ??ねぇ??


……等々と、色々な言葉が飛び出しそうになるが、俺はグッと飲み込み、自制する。


「けど、真面目に答えてあげるとアンタを見ていたような人の心の声は聞こえてこないから、やっぱり気のせいだよ思うよ?」


わざわざ異能力を使って調べてくれた日葵が、言ったとおりでしょ?といった風な表情を浮かべながら告げる。


「……急にデレないでくれよ、惚れてしまうだろ」


「えぇ、きっも…………」


「いや割とガチ目なトーンとひきっつた表情で言わないで?流石の俺も一言も言葉を発さなくなるぞ??」


とはいえ、きもい事を言っている自覚はある。

故に、ダメージは最小限に留められている。


「……まっ、気のせいならいいんだけどな」


こうして俺は、視線の事等すっかり思考から削除し、日葵と共に学校への道のりを歩むのだった。

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