第3話 旧世界より③
――学校の授業の中で、俺にとって最も退屈な授業がある。
「異能力とはみなさんも知っての通り、特別な力であり――――」
…………それこそが、この異能力に関する授業である。
いやはや、全くもって暇だ。
なんせ、俺には異能力なんてこれっぽちも宿っていない訳で……ぶっちゃけ、正しく扱う方法だとか人に向けて使用してはいけませんだとか、異能力の起源とは何なのかだとか―─持たざる者の俺にとっては知ってもなんら人生になんら支障はないであろう言葉を聞いているくらいなら、俺だけ先生公認で特別にスマホをいじっていていい時間にしてほしいぜ。
「ふわぁ……」
あくびをしながら、俺は窓から青々とした晴天を眺める。
正直、自分自身の今の人生には満足していると思う。
…………けど、何故だろうか。
時々、この世界をつまらなく思う時がある。
いや、理由なら分かっている。
俺に、異能力が無いから……だから、どことなくつまらなく思うのだろう。
……しかし、もし仮に俺が異能力を持っている人間だったとして――本当に、この世界をつまらないと思わないのだろうか?
もし異能力を後天的に得られる──だなんて事が起き得たとするのなら、俺はこのつまらない世界を、全く新しい視点を以て見る事が出来るのだろうか?
能力者だけが見られる、俺が見ている世界とは違う新世界。
……いつか、それを見て見たいものだ。
△▼△▼△
「アっイっス~♪ドーナっツ~♪」
分かりやすく上機嫌なスキップをかましながら、日葵が先頭を歩む。
おおよそ高校生には思えない子供のようなテンションだが……まぁそんな所もコイツの良さとしとこう(適当)
「ったく、可愛いやつだなお前は」
しかし、そんな様子の美少女を見てそう思うのもまた必然。
優雅さを纏ったお淑やかな女性も魅力的だが、個人的にはこのような可愛げのある言動をする女性も魅力的に映るものだ。
「は、はぁぁぁ!?」
しかし、その言葉が良くなかったのか否か……先程まで上機嫌だった日葵の様子が一気に驚きのようなものへと変わった。
「……か、可愛いって…………」
と思いきや、今度は頬を赤らめそう呟くではないか。
「何だお前」
そんな彼女の様子を見て、俺は思わずそう言葉を発する。
日葵レベルの美少女なら可愛いだなんて言われ慣れてるだろうし、なんだったら告白だって数え切れないほどされている筈だ。
本当にそこまで驚く程の事なのだろうか……?
……いやまさか、滅多に日葵の事を褒めない俺が珍しく褒めたから驚いているのか……?だとしたら、その反応も妥当である。
「な、なんでもない!!あーあ、早くアイス食べたーい。やっぱり四段アイスにしようかな〜〜〜」
「四段なんてあんのか!?」
なんて会話を経た道中の末。
俺達はついに――目的地であったショッピングモールへと辿り着いていた。
この場所なら、アイスからドーナツは勿論の事、カフェからゲームまで色々な店がある為、ここに訪れれば先ず間違いないだろう。
「んで、最初は何から行くんだ?アイスか?」
「うんっ。アイスにする~♪」
これまた上機嫌な足取りで、我先にとアイス屋さんがある方へと向かう日葵。
これは、四段では到底済まなさそうだ……。
なんて思いながら、俺は日葵の横につき肩を並べ、アイス屋さんまでの道のりを10分足らずで歩く。
そして、店が目の前まで見えた――――その時だった。
地面が、建物内が――確かに、震えた。
この特別広いショッピングモールの中にいる全ての無機物、有機物が悲鳴を上げていくのを感じる。
「何!?」 「なんだ!?」
同時に同じような反応をした俺達は、素早く辺りを見渡し、状況を把握しようと視線を動かす。
そして―─俺達はそれを“視認”してしまった。
「がァ、アアア、ダれカ、ダレかとめテクレえぇェエエエ!!!」
荒ぶり昂る、波のような炎を身に纏う“何か”が、狂ったような声色で助けを求めながら、不安定な足取りで頭を抱え、歩いている。
「んだよ、アレ…………」
見た事が無い未知なる異様な存在に、俺の体は絶句と恐怖で硬直した。
果たして、アレが本当に“人間”であるのか。
人間であるとして、未だ理性を保っているのか……それすらも理解する事が出来ないが、ただ一つだけ──分かる事があった。
“アレ”はヤバイ――!!
「日葵!!すぐに外に出るぞ!!」
「あ、うん!!」
日葵の腕を引っ張り、階段の方へと向かおうとする。
しかし、平日とはいえどここはショッピングモールの中……俺と同じような思考に至ったであろう人間で、エスカレーターも階段も多くの人間で混雑していた。
「クソッ!!」
これでは、逃げるのにも逃げられない。
その間にも、炎は暴れ猛り、ショッピングモール内を無差別に焼き、その炎を広げていく。
「天くん!!あれ!!」
日葵が見ろと言わんばかりに炎の方に向かって指をさす。
その先には――。
「子供……だと」
まだ小学校低学年のような少女が、恐怖に足がすくんでしまっているのか炎の前で茫然と座り込んでいる姿があった。




