第9話 市場で拾った本当の値段
茶会の準備は、値段の見直しから始まった。
私は仕入れ先を三つに分けた。茶葉は市場の老舗、焼き菓子用の蜂蜜は近隣農家、花瓶用の葉物は離宮の庭から。見栄のために遠方の高級品を買うのはやめ、代わりに説明できる品質を揃える。
「殿下はお気づきになるでしょうか」
侍女のリナが不安そうに聞いた。
「気づかれたら説明します。離宮の薔薇と地元蜂蜜を使いました、と」
「怒られませんか」
「怒る人は、怒る理由を最初から持っています」
だったら隠すより、こちらの筋を通したほうがましだ。
午後、ユリウスが温室へ顔を出した。彼が持ってきたのは古い搬入札の束だった。
「詰所の倉庫から出ました。捨て忘れかと」
見ると、離宮へ入ったはずの石炭と砂糖が、途中で王都別邸へ回された記録が残っている。署名欄は公爵家執事名義。これなら“意向”ではなく、具体的な流用だ。
「完璧です」
「まだ揃っていません」
「ええ。でも、線はつながりました」
私は札を重ねながら言った。
「あなたがいると、数字が現場へ降りてくるんですね」
「あなたがいると、現場が数字になる」
珍しく長い返答に、私は思わず手を止めた。
「それ、褒めていますか」
「事実です」
また事実。
けれどこの人の“事実”は、嘘の多い場所ではとても頼もしい。
茶会前夜、私は応接間の中央へ白薔薇を飾った。派手ではない。けれどよく手入れされた静かな美しさは、離宮そのものに似てきた気がした。
明日、誰が来ても揺らがないように。
私は帳簿を閉じ、まっすぐ背を伸ばした。




