第8話 王都からの催促状
市場の朝は、王都より正直だ。
値札と品が合っていなければ誰でも怒るし、良い品にはちゃんと人が集まる。私はその空気が嫌いではない。
ユリウスと護衛二名を連れて露店を回り、まず茶葉の相場を確かめた。帳簿で請求されていた額の三分の一で、同等品が買える。やはり差額は抜かれている。
「この印の商会、最近見ましたか」
私が請求書を見せると、香辛料商の老婆が鼻を鳴らした。
「その名前なら王都の事務官が使う幽霊商会さ。実際にはうちから買って、書類だけ別名義で回してるんだろ」
あっさり核心が出た。
私は銅貨数枚で帳場記録の写しを譲ってもらい、心の中でバスティアンへ冷たい帳尻をつけた。
帰りの馬車で、ユリウスが封書を差し出した。
「公爵家からです」
中身は短い。
『余計な節約はするな。離宮は体面を保てばよい。監査まで穏便に』
穏便に、というのはつまり、数字を見なかったことにしろという意味だ。
「無理な注文ですね」
「従いますか」
「いいえ」
即答すると、ユリウスの目が少しだけ和らいだ。
「あなたはそう言うと思っていました」
「残念でしたか」
「安心しました」
馬車の揺れの中で、その言葉だけがはっきり残る。
離宮へ戻ると、私は市場の写しを旧会計庫の箱へしまった。証拠は増えてきた。足りないのは、誰の前でいつ出すかだけ。
そして三日後の茶会が、その最初の舞台になる。
替え玉のまま終わるつもりはない。
せめて去るときには、誰が何を盗んだのか、きっちり数字で置いていく。




