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第7話 偽物令嬢の茶会準備

市場へ出る前に、王都から書状が届いた。


『三日後、王弟妃エヴェリーナ殿下が薔薇離宮を視察される。ロザリンドとして不足なく迎えよ』


 不足なく、とは便利な言葉だ。予算も物資も足りない現場にだけ降ってくる。


「茶会を開けということですね」


 マルグリットが額を押さえる。


「食器は揃いますが、菓子は難しいかと」


「豪華である必要はありません。整っていればいい」


 私はすぐに作業表を書いた。温室の白薔薇を一輪ずつ飾る。菓子は蜂蜜と乾燥果実で焼けるものに絞る。テーブルクロスは倉庫の生成りを漂白し直す。見栄を金で買えないなら、手間で整える。


 午後、使用人たちが慌ただしく動き始める。誰かが命じれば、館はまだちゃんと応えてくれる。その手応えに、私は少しだけ安堵した。


 だが鏡台の前で“ロザリンド”として座ると、胸の奥はざらつく。


 青薔薇の刺繍入りドレス。公爵家から送られてきたもので、いかにも病弱でか弱い令嬢が好みそうな色だ。私は袖口を整えながら、ふと呟いた。


「もう、本当は着たくないのですが」


 背後で控えていたユリウスが聞き取ったらしい。


「なら、やめればいい」


「そうできれば楽です」


「必要なら、あなたの名で迎える方法を考えます」


 私は鏡越しに彼を見た。


「それでは殿下が警戒します。今はまだ、向こうに先に油断していただきたいのです」


「……危険を選んでいる」


「仕事ですから」


 彼は少しだけ黙り、やがて一輪の白薔薇を化粧台へ置いた。


「せめて、嘘で飾りすぎないように」


 その不器用な気遣いに、思わず笑ってしまう。


「ありがとうございます、隊長」


 三日後の茶会は、離宮の命運を左右する。


 替え玉令嬢としてではなく、離宮を守る責任者として失敗できない。


 私は白薔薇を髪ではなく胸元へ挿した。


 少なくともそれだけは、今の私にふさわしい気がした。


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