第6話 帳簿から消えた砂糖
茶会用の砂糖は、離宮にとって見栄そのものだ。
だからこそ、誰かはそこを狙った。
私は原票と在庫表を突き合わせ、砂糖樽の搬入日を一覧にした。届いたことになっている量の半分しか倉庫に入っていない。しかも不足が出るのは、いつも王都からバスティアンが来た週だ。
「砂糖だけでこれなら、他も同じですね」
マルグリットが苦い顔で頷く。
「香辛料、茶葉、蝋燭、高級布。贅沢品ほど消えます」
「離宮名義で買って王都へ流す。よくある手口です」
私は請求書の端を指で叩いた。ここにも飾り罫。妙な几帳面さは隠れない。
その夜、ユリウスが詰所から木箱を持ってきた。中には押収品の古い封蝋が並んでいる。
「偽印章の見本です。比較に使えるかと」
「こんなものまで貸してくれるんですか」
「貸すのではなく、預けます」
私は箱の中の一つを見て息を止めた。公爵家の紋章に似せた粗悪な印だ。
「同じ工房かもしれません」
「追えますか」
「帳簿だけなら無理です。でも市場の支払い記録と合わせれば」
そこまで言って、私は笑った。
「明日は買い出しに出ます」
「護衛をつけます」
「隊長自ら?」
「あなたが倒れたら、離宮が倒れます」
即答だった。
その事実の言い方があまりにまっすぐで、私は一瞬言葉を失う。甘いことは何一つ言わないのに、妙に大切に扱われている気がした。
私は視線を帳簿へ戻した。
「では、離宮のために倒れないようにします」
「ええ。お願いします」
短い返事なのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
消えた砂糖の先には、たぶんもっと大きな穴がある。
けれど今の私は、その穴へ落ちるためではなく、中を照らすためにここへ来たのだ。




