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第5話 薔薇温室はまだ死んでいない

午後、私は閉鎖された温室へ向かった。


 鉄枠の硝子は半分が曇り、蔓薔薇の棚は枯れ枝だらけ。けれど土を指で掘ると、下はまだ柔らかかった。


「完全には死んでいません」


 庭師のエルンストが驚く。


「この冬、燃料を切られてから誰も近寄れず……」


「切られたのではなく、抜かれたのでしょう」


 帳簿上では十分な石炭が届いている。実際には暖炉に回す分すら足りなかった。


 私は壊れた散水管を見つめた。これも修繕申請だけ通って、工事はされていない。


「応急処置はできますか」


 ユリウスがすぐに答えた。


「警護詰所の予備管が使えます」


「離宮の警護詰所は、ずいぶん融通が利くのですね」


「植物に罪はありません」


 また真顔だ。けれどその返事が、私は少し好きだった。


 夕方までかけて散水をつなぎ直し、温室の端に残っていた薬草苗を並べ替える。薔薇だけでは食べられないが、薬草なら売れる。離宮が自分で稼ぐ道を一つでも増やせば、公爵家の機嫌に左右されにくくなる。


「花ではなく薬草を育てるおつもりで?」


 エルンストが尋ねた。


「両方です。見栄えと収益は、分けて考えると失敗します」


 見た目だけ整えても赤字になる。稼ぐことだけ考えても離宮の役割を失う。だから両方要る。


 日が傾くころ、枯れ枝の奥で小さな蕾を見つけた。遅咲きの白薔薇だ。


「生きていましたね」


 私が笑うと、隣のユリウスが静かに言った。


「離宮も同じかもしれません」


 その一言が妙に胸へ残った。


 王都では、私は表に出るための替え玉でしかなかった。けれどここでは、枯れたように見えるものを、本当に終わったのか確かめられる。


 温室の扉を閉めるとき、私は白薔薇の蕾へそっと目をやった。


 まだ咲ける。そう言われた気がした。


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