第4話 空っぽの食糧庫と銀の鍵
三週間を持たせるには、まず今日を持たせなくてはならない。
私は朝から使用人全員を食堂へ集めた。十一名、全員成人。表情は揃って疲れているが、まだ見切りをつけきれていない顔でもある。
「本日から、離宮の支出はすべて私を通してください」
私が宣言すると、下働きの若い侍女が不安げに手を挙げた。
「夕食の肉は、もう残っていません」
「代わりに豆を使います。マルグリット、干し豆と根菜の在庫は?」
「三日は持ちます」
「なら十分です」
足りないなら買う前に回す。回せないなら育てる。数字の仕事は、諦めない順番を決めることだ。
私は予算表を壁へ貼り、食費・燃料・修繕費を三色に分けた。誰が見ても、どこが削れないか分かるように。
「花瓶用の輸入花は中止。応接間の香油も半減。温室再開までは観賞費ゼロです」
庭師のエルンストが戸惑う。
「それでは貴族らしさが」
「飢えた離宮に貴族らしさは要りません」
沈黙のあと、食堂の隅から小さな笑いが漏れた。最初に笑ったのはマルグリットだった。
「その通りでございますね」
空気が少しだけ動く。
昼には、銀の鍵で開けた旧倉庫から保存食の記録箱を見つけた。三か月前までは、確かに十分な物資が入っている。そこから突然、仕入れ量だけが増え、現物が減った。
「横流しの始点はここですね」
私が呟くと、ユリウスが壁の傷を指さした。箱を引きずった跡だ。
「夜に運び出したのでしょう」
「警備記録と合わせれば、馬車の日時は絞れます」
彼はすぐに紙を差し出した。夜警の配置表まで整理済みだった。
「仕事ができすぎませんか」
「あなたほどでは」
真顔で言うので、褒められたのかどうか一瞬分からない。
夕食には豆の煮込みと薄焼きパンを出した。質素だが温かい料理は、思った以上に場を明るくする。使用人たちの顔色も少し戻った。
「これなら続けられそうです」
侍女のひとりがそう言ったとき、私はようやく小さく息をついた。
替え玉として来た離宮で、初めて“次の一日”が見えた。
それだけで、空っぽの食糧庫にもまだ戦う価値があると思えた。




