第40話 朝の離宮は二人の仕事場
正式な総監として迎える最初の朝、私はいつもどおり温室へ向かった。
白薔薇はよく咲き、薬草棚は整い、増築した南棟の硝子にも朝日がきれいに差している。少し前まで赤字と偽印章ばかり見ていた場所が、今はちゃんと“回る”景色になっていた。
作業台の上には、新しい帳面が二冊ある。ひとつは離宮運営用。もうひとつは、ユリウスが持ってきた予定帳だ。
「やはりここにいましたか」
振り返ると、彼が二つのカップを持って立っていた。今日は蜂蜜を少しだけ入れた薬草茶らしい。
「見つかりましたね」
「重要書類か温室か。そのどちらかですから」
私は笑ってカップを受け取り、作業台へ新しい今日の予定を書き込む。王妹殿下の療養歩行、午前の納入確認、午後の温室講習。夕方にはロザリンドへ送る最初の教材もまとめるつもりだ。
「忙しいですね」
「ええ。でも、いい忙しさです」
ユリウスが私の隣で予定帳を開いた。警護配置を書き込み、最後に小さく“朝の紅茶”と足す。その真面目さが可笑しくて、私は肩を揺らした。
「それも予定に入れるんですか」
「重要事項です」
外では朝の鐘が鳴り、離宮がまた一日を始める。誰かの身代わりとしてではなく、私の名で。ひとりではなく、隣に同じ未来を書き込む人と一緒に。
朝の薔薇の香りの中で、私は帳面を閉じ、ちゃんと自分の名前で笑った。




