第38話 白薔薇の夜会と公開精算
問題は、王妹殿下が退出する直前に起きた。
セルヴァン卿が立ち上がり、広間の中央で声を張る。
「温室増築費と浴場用品費に不審な増加が見られます。薔薇離宮の会計は、果たして本当に健全なのでしょうか」
それは待っていた一言だった。
私はすぐに台帳箱を開き、白薔薇を飾った長机へ帳面を並べた。公開精算用に準備しておいた資料だ。入札表、納入札、封印記録、証言書、割れた留め具、予備鍵の返却表。
「ご説明します」
広間の視線が一斉に集まる。けれど不思議と怖くなかった。ここまで積んだ数字は、全部自分で触ってきたものだからだ。
「増加したのは、破壊工作で割られた硝子の緊急補修分です。こちらが元の見積、こちらが公開入札後の採用額。そしてこちらが、ヴォルフェルト商会側で作られた月光色の偽搬入札」
紙を並べるたび、ざわめきが変わる。
「療養用香油は過剰に計上され、薬草は離宮側の管理不足に見せかけるため隠されました。洗濯係ミラの証言、臨時書記の証言、そしてセルヴァン卿付き書記官の封印番号が一致しています」
セルヴァン卿の顔色が抜けた。
「根拠のない中傷だ」
「では、この印章の爪痕も偶然ですか」
私は見積書と偽札を並べ、右下の細い傷を見せた。同じ癖は、今さら消せない。
王妹殿下セレスティアが静かに立ち上がる。
「十分です」
その一言で、広間が凍る。
「薔薇離宮の会計は公開されています。隠していたのは、あなた方のほうでしょう」
ラヴィニアが護衛へ目をやり、セルヴァン卿とヴォルフェルト商会主人はその場で退席を命じられた。
静寂のあと、誰かが拍手した。次いで二人、三人。広間に広がるその音を聞きながら、私はようやく息を吐く。
白薔薇の香りの中で、帳面はきちんと人を守った。




