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第37話 婚約より先に予算承認
夜会のあとも、仕事は終わらない。
客が引いた広間で、私は予備費台帳と修繕計画を開いていた。温室の仮枠、浴場の手すり、客間の追加寝具。王妹殿下の正式滞在には、今夜のうちに承認を通しておきたい。
ユリウスが向かいへ座り、何も言わず封印記録を並べた。彼は数字を飾らない。けれど今では、必要な欄へ迷わず印を置ける。
「ずいぶん慣れましたね」
「あなたの隣で覚えました」
その返事に、少しだけ胸が熱くなる。
承認欄の最後まで埋めたところで、ユリウスがペンを置いた。
「エルマ」
いつもより声が低い。
「明日の精算が終わったら、改めて言いたいことがあります」
私は書類から顔を上げた。
「予想はついています」
「なら」
「でも、順番を間違えたくないんです」
私は未承認の一枚を指で叩いた。
「まず離宮の予算を通す。それから未来の話をしましょう」
ユリウスは一瞬だけ目を見開き、それから柔らかく笑った。
「了解しました、総監殿」
「仕事中ですから」
「では仕事として、ここに署名を」
差し出された書類へ、私は自分の名を書いた。続いてユリウスが警護責任者として署名する。二つの名前が並ぶだけで、妙に落ち着いた。
婚約の言葉はまだない。けれど、同じ未来の帳面を前にしていることは、もう十分伝わっていた。




