第35話 夏夜会の席次表
王妹殿下の滞在初夜には、小さな歓迎の夜会を開くことになった。
小さいと言っても、王都と辺境の関係者が二十名以上集まる。問題は料理より席次だった。誰をどこへ置くかで、この離宮が誰の場所かが決まってしまう。
セルヴァン卿は当然のように案を出した。王妹殿下の隣にロザリンド、対面に王都商会、私は末席の運営担当。見事なまでに、昔のままの並びだ。
「却下します」
私は一枚で破った。
「ずいぶん即答ですね」
「役割順で座っていただきます」
中央は王妹殿下。右手に侍女長ラヴィニア、左手に医務担当。私は運営責任者として一つ下の列へ、ユリウスは警護責任者としてその隣。ロザリンドは温室計画の補助担当として、植物講座の紹介者と同じ卓へ置く。
「公爵令嬢が二列目など」
セルヴァン卿が言いかけたところで、ロザリンド本人が静かに口を開いた。
「その席で結構です」
場が一瞬止まった。
「私は離宮の主ではありません。今の役目に合う席があれば十分です」
その言葉だけで、私は少しだけ肩の力が抜けた。
夜、席次表を抱えて執務室へ戻ると、ユリウスが湯気の立つ茶を持ってきた。
「公に私が隣でも問題ないのですか」
私が訊くと、彼は表を見て言う。
「離宮を守る責任がある。あなたの隣がその席なら、そこに座ります」
「巻き込まれるかもしれません」
「もう巻き込まれています」
あまりに当然の顔で言うので、私は笑ってしまった。
席次はただの並びではない。誰が誰の代わりではなく、誰の役目でそこにいるのかを示す表だ。だからこそ、間違えたくなかった。




