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第33話 温室増築と割れた硝子

壊される前に直すつもりだった。けれど相手も急いでいた。


 温室増築の最終確認をしていた夕方、突風と一緒に大きな破裂音が響く。南側の新しい硝子が一枚、外れた留め具ごと割れ落ちた。


「苗を守って!」


 私は叫び、マルグリットが使用人を動かし、庭師エルンストが箱を抱える。ユリウスは飛んできた硝子片を払い、私を庇うように前へ立った。


 幸い、大きな怪我人は出なかった。だが現場を見ればすぐに分かる。留め具のねじ山が意図的に削られている。


「自然故障ではありません」


 私は割れた部品を布へ包んだ。


「ええ」


 ユリウスが短く答える。


「昨夜の証言どおりだ」


 普通ならここで工程を止める。けれど止めれば、相手の思うつぼだ。私は予備費台帳を開き、その場で修繕順を組み替えた。


「南棟の飾り鉢を延期します。浮いた分で仮枠を組み、苗は旧温室へ一時退避」


「間に合いますか」


「間に合わせます」


 その夜、離宮の灯りは遅くまで消えなかった。使用人も警護も庭師も、皆で手を動かす。割れた硝子の向こうに、まだ小さな白薔薇が揺れていた。


 ユリウスが仮枠を押さえながら言う。


「あなたは、壊れたあとより壊される前の顔をしている」


「怒っているんです」


「知っています」


「でも今は、怒るより直すほうが先でしょう?」


 彼は少しだけ笑った。


「本当に、あなたらしい」


 その一言で、折れかけた気持ちがまたまっすぐ立った。


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