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第31話 王妹殿下の視察日

視察は予定より半日早く始まった。


 王妹殿下セレスティアは大仰な行列ではなく、侍女長ラヴィニアと護衛数名だけを連れて現れた。三十代半ば、穏やかな目元の奥に、ひどくよく人を見る光を持つ女性だった。


「薔薇離宮を案内してくださるのは」


「総監代行エルマ・セヴランです」


 私は一礼した。もう声は震えない。


 セレスティア殿下は客間の薄い香りを確かめ、浴場の手すりを撫で、温室の薬草棚を長く眺めた。豪華さより、整え方を見る人だとすぐに分かる。


「静かでいい場所ですね」


「休むための場所にしたかったので」


「そのとおりです」


 昼食には薄い薬草湯と白身魚の蒸し煮を出した。殿下は一口食べ、侍女長と目を合わせる。


「胃が驚かない味です」


 それは私たちにとって、何よりありがたい評価だった。


 食後、私は月光色の搬入札と証言の件を伏せずに伝えた。視察前日に不正があったと告げるのは賭けでもある。けれど隠して信頼を失うほうが、高くつく。


 セレスティア殿下は静かに聞き、やがて言った。


「誤魔化さない責任者は、宮中では珍しいものです」


 そしてロザリンドがつけた客名簿へ視線を落とした。


「こちらは」


 ロザリンドが自分の名で一歩前へ出る。


「補助をしております」


 殿下はその返事に、わずかに笑った。


「良いことですね。自分の役目を、自分で言えるのは」


 視察の最後、殿下は私へ短い許可状を渡した。


「この方針で準備を続けてください。贅沢ではなく、回る仕組みを優先すること」


 その紙の重みで、ようやく私たちのやり方が王都の前でも立ったのだと実感した。


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