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第29話 消えた療養用薬草

新しく届いた薬草箱が、翌朝には半分消えていた。


 温室の鍵は閉まっていたし、門の出入り記録にも不審はない。けれど棚の奥だけが不自然に空いている。持ち去られたのは頭痛止めに使う白花薄荷と、鎮静用の青葉草だった。


「外へ出していないなら、中の誰かです」


 私はそう言いながら、客名簿を見直した。するとロザリンドが顔を上げる。


「昨日、浴場脇の予備鍵が返ってきていないわ」


 私はすぐにユリウスと旧礼拝室の廊下へ向かった。白い石壁の奥、使われていない物置に薬草箱が隠されている。持ち出そうとしたところを捕まえたのは、若い洗濯係のミラだった。


「ごめんなさい……でも、命じられたんです」


 震える彼女を責めるより先に、私は箱の数を確かめた。欠損はまだ戻せる。


「誰に」


「商会の使いの人に。予備鍵を借りればいいって。断ったら、母の借金を言われて……」


 ユリウスが一歩前へ出たが、私は先にミラへ水を渡した。


「もう一度訊きます。名前は」


「ヴォルフェルト商会の倉庫係だと……月光色の札を持っていました」


 そこまで聞けば十分だった。札、鍵、薬草。全部ひとつの線につながる。


「ミラ、あなたは今から証言者です」


 彼女は涙を拭き、怯えながらも頷いた。


 盗まれた薬草より、ずっと大事なものが戻った気がした。脅されて黙るしかなかった人の声だ。離宮を守る仕組みには、数字だけでなく、その声も要る。


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