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第28話 離宮厨房の新しい献立表

帳面だけでは保養は回らない。


 厨房へ降りると、料理長のベアトリスが腕を組んで待っていた。王妹殿下向けの献立案を三つ作ったが、どれも豪華すぎると言って首を振られていたのだ。


「豪華じゃなくて、軽くて続くものを」


 私は温室から摘んだ薬草を机へ並べた。レモン草、白花薄荷、やわらかい若いタイム。香りは穏やかで、胃に負担をかけにくい。


「朝は麦粥と薬草湯。昼は白身魚の蒸し煮。夜は薄い鶏出汁に温野菜を」


「地味ですね」


「療養ですから」


 ベアトリスは少し考え、それからにやりと笑った。


「では、地味で美味しいものを出しましょう」


 午後には試作が並んだ。香りは柔らかく、塩も控えめ。それでも口に入れると、きちんと満足できる。


 ユリウスが味見皿を受け取り、真面目な顔で一口食べる。


「どうですか、隊長」


「警護上の確認としては問題ありません」


「感想が硬いです」


「……美味しい」


 ようやく絞り出したように言うので、厨房中が笑った。


 その日の夕方、ロザリンドが新しい献立台帳へ客の好みを書き込んだ。甘い香りが苦手、温かい飲み物は薄め、朝は静かな席を希望。誰かの体調へ合わせて記す文字は、以前よりずっと落ち着いていた。


 離宮は少しずつ、見せる場所ではなく休める場所になっていく。私はその変化が、たまらなく好きだった。


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