第26話 月光色の搬入札
問題の匂いは、たいてい紙の端に残る。
新しい苗とリネンが届いた日の夕方、私は納入札の色が一枚だけ違うことに気づいた。正式な搬入札は淡い灰色だ。けれどその紙は、月光を混ぜたような青白い色をしていた。
「この札、見覚えがあります」
私は机へ並べてすぐに思い出した。セルヴァン卿の見積書に挟まっていた控えと同じ紙質だ。
記載されていたのは、療養用香油十二瓶、浴場用塩三箱、寝室用芳香布四巻。けれど実際に届いた箱の中身は半分しかない。しかも療養用にしては香りが強すぎる。
「また水増しですね」
マルグリットが低く言う。
「ええ。しかも今度は、離宮側が受け取ったように見せかけるつもりです」
私は札の角を撫でた。右下に細い爪痕のような傷がある。見積書の封にもあった癖だ。
ユリウスが横から紙を覗き込む。
「同じ手で押された印章だ」
「気づきましたか」
「会計官の隣にいると、嫌でも紙を見るようになる」
私は思わず笑ったが、すぐに札を封筒へ入れた。これは証拠になる。問題は、誰がいつ離宮の受領印を使おうとしたかだ。
「今夜から印章箱を二重管理にします」
「私が鍵を預かる」
「では私は帳面を預かります」
短い確認だけで十分だった。月光色の紙は美しい。けれど、綺麗な色ほどごまかしを隠しやすい。私はその一枚を、新しい不正の始まりとして台帳へ挟み込んだ。




