第23話 離宮総監の名で迎える客
王妹殿下の前に、まず王家侍女長ラヴィニアが下見へ来た。
王都でも評判の厳格な人だと聞いていたが、実際に現れた彼女は、噂以上に視線の鋭い四十代の女性だった。客間の窓、階段の段差、浴場までの導線。何ひとつ見落とさない。
「ロザリンド嬢は」
最初の質問がそれだった。
「本日の案内は、総監代行エルマ・セヴランが務めます」
私が答えると、ラヴィニアは一瞬だけ眉を上げた。けれど何も言わず、私の後について客間へ入る。
私は見栄えではなく運用を説明した。寝具の洗い替え数、療養食の時間、温室から浴場までの距離、雨天時の動線。帳面どおりに準備したことだけを話す。
「装飾は控えめですね」
「療養では眩しすぎる色と強い香りが負担になるそうです」
「調べたのですか」
「必要でしたので」
ラヴィニアは客間の机へ置いた献立表と、食物制限の記入欄つき台帳を見比べた。
「……実務型ですね」
褒め言葉かどうか分からなかったが、次の言葉で十分だった。
「王妹殿下は、こういう整え方を好まれます」
案内の最後、彼女は振り返った。
「あなたは公爵令嬢ではないのですね」
「違います」
「それで?」
私は少しだけ息を吸った。
「それでも、この離宮を回す責任者です」
ラヴィニアはごく小さく頷いた。
「では、その名で報告します」
その一言で、肩の奥に残っていた古い緊張が少しだけほどけた。誰かの名でごまかさず、私の名で迎えた最初の客は、ちゃんとそれを見ていた。




