第21話 王家保養の見積書
総監代行の辞令を受けてから一週間、薔薇離宮は静かに忙しかった。
新しい台帳は順調に増え、温室の薬草も少しずつ育っている。ようやく落ち着いてきたと思った朝、王家財務局から分厚い封書が届いた。
「追加辞令です」
読み上げた瞬間、食堂が静まる。
王妹殿下セレスティアの夏季保養を、薔薇離宮で受け入れること。客間の整備、浴場の修繕、療養用献立の作成、温室の増設。期限は四十日後。
「ずいぶん急ですね」
私が呟くと、向かいのユリウスが手紙の束を受け取った。
「急かして失敗させたい者がいるか、急がせるだけの理由があるかだ」
同封されていた見積書を見て、私はすぐに眉を寄せた。白いリネン、香油、浴場飾り石、観賞用薔薇。必要なものもあるが、価格がひどい。しかも療養に不要な贅沢品が多すぎる。
「これでは離宮を立て直すのではなく、また飾り立てるだけです」
昼前、その見積書を持参した宮務次官セルヴァン・レイスが離宮へ現れた。痩せた体に上等な上着、指先まで整えられた男だ。礼儀はある。けれど言葉の端に、こちらを数字ではなく飾りとして扱う癖があった。
「形式上は、ロザリンド嬢のお名前で運営されたほうが収まりがよろしいでしょう」
私は即座に帳面を閉じた。
「この離宮は今、私の名で預かっています」
「しかし王家の客を迎えるのです。公爵令嬢の体裁があったほうが」
「体裁で食材は増えませんし、体裁では浴場も直りません」
ユリウスが私の隣で静かに口を開いた。
「警護記録も物資台帳も、すでに総監代行エルマ・セヴラン名義へ統一済みです」
セルヴァン卿は一拍だけ黙り、薄く笑った。
「……では、結果で示してください」
客が去ったあと、私は新しい見出しを作った。
“夏季保養会計”。
もう誰かの名前を借りて整える仕事はしない。今度も帳面の一行目は、私の名から始める。




