第19話 新しい肩書きは離宮総監
一週間後、王都から正式な辞令が届いた。
封を切る前から、手が少し震える。マルグリットも使用人たちも食堂へ集まり、ユリウスは壁際で腕を組んでいた。
私は深呼吸して読み上げる。
「王家財務局は、エルマ・セヴランを薔薇離宮総監代行に任命する。離宮の会計、調達、運営全般を一任し、必要に応じて王都へ直接報告すること」
一瞬の静寂のあと、拍手が起きた。こんなに温かい音を、この離宮で聞く日が来るなんて思わなかった。
私は笑いながら、少しだけ目頭を押さえる。
「代行、ですけれど」
「十分です」
マルグリットが胸を張る。
「最初からその肩書きで来ていただきたかったくらいです」
その日の午後、私は新しい台帳へ最初の行を書いた。
食費、修繕費、温室収益、警備協力費。どれも私の名で記される。借りものではない数字は、思った以上にまっすぐだった。
夕方、回廊でユリウスが足を止めた。
「おめでとうございます、総監殿」
「似合いますか」
「とても」
その返事が即答で、私は思わず笑う。
「では、近衛騎士隊長殿。これからも警護協力をお願いできますか」
「命令なら」
「お願いです」
すると彼は、珍しく少しだけ言葉を選んだ。
「……お願いなら、いくらでも」
胸が熱くなる。けれど今度は逃げなかった。
「では、ひとつだけ。これからは“ロザリンド様”ではなく、最初からエルマと呼んでください」
ユリウスは私を見つめ、静かに頷いた。
「承知しました。エルマ」
たったそれだけで、長い冬が終わった気がした。




