第17話 公開監査の日
監査は応接間で行われた。
王都から来たのは王家財務監査官セドリック・ノールズ。四十歳、細い眼鏡の奥に容赦のない目をした男だ。彼は席へ着くなり言った。
「本日はロザリンド嬢の静養費と離宮運営費の照合作業です。虚偽があれば公爵家の責任も問います」
その一言で、バスティアンの顔色が変わる。
私は原票、搬入札、警備記録、偽印章、隠し金の封札を順に机へ並べた。使用人たちの証言書も添える。数字は多いが、線は一本だ。
「薔薇離宮の不足は、無能ではなく流用によるものです」
私はそう告げた。
監査官は一枚ずつ目を通し、質問を投げる。私は答える。ユリウスが警備記録を補足し、マルグリットが保管状況を説明し、ベアトリスたちが搬出の目撃を証言する。
途中でバスティアンが叫んだ。
「全部、この女の作り話です! 替え玉ごときの」
監査官の視線が冷たく刺さる。
「では、この私印入りの転用命令書も作り話だと?」
公爵の書簡を示され、バスティアンは言葉を失った。
ロザリンドは青ざめたまま椅子へ座り、とうとう小さく言った。
「……お父様は、少し借りるだけだと」
それで十分だった。
監査官は書類を閉じる。
「公爵家本邸と王都別邸へ即時査察を入れます。薔薇離宮の運営権は一時凍結。現場保全のため、当面はエルマ・セヴラン殿の管理継続を命じます」
応接間に、はっきりと空気の向きが変わる音がした。
替え玉令嬢ではなく、私の名で。
私は深く一礼した。
「承知いたしました」
顔を上げたとき、ユリウスがほんの少しだけ笑っていた。
それを見ただけで、今日ここまで耐えた意味が全部報われた気がした。




