第15話 離宮の使用人はもう黙らない
監査の前に必要だったのは、書類だけではなく証言だった。
私は使用人全員を再び食堂へ集めた。ロザリンドは来ない。来たくないのだろう。代わりにバスティアンが顔を出そうとしたが、ユリウスが扉の外で止めた。
「これから話すことは、誰かを巻き込む可能性があります」
私が前置きすると、空気が張る。
「それでも、見たことを話してほしいのです。夜に運び出された箱、消えた食材、偽の署名。私一人では足りません」
最初に口を開いたのは台所係のベアトリスだった。
「砂糖樽を空にした夜、王都の馬車が来ました。伝票には“茶会用”とあったのに、翌朝には茶葉まで消えていました」
次に庭師エルンスト。
「温室燃料を運ぶはずの荷車が、正門を通らず裏門へ回りました。命じたのはバスティアン殿です」
侍女リナは、泣きそうな顔で続けた。
「ロザリンド様は、ご存じでした。“離宮なんて飾り箱だから、中身はどうでもいい”って」
胸が痛んだ。けれど、それもまた記録しなくてはならない。
マルグリットが最後に言う。
「私は長く仕えました。だから黙ってきました。ですが、これ以上は離宮に対して不実です」
十分だった。
私が頭を下げると、食堂の空気はむしろ軽くなった。ずっと喉に刺さっていた棘を、みんなでようやく抜いたような顔をしている。
会が終わったあと、ユリウスが廊下で待っていた。
「よく集めました」
「私ではありません。離宮が自分で声を上げただけです」
「それを引き出した」
彼はそう言ってから、少しだけ視線を逸らした。
「……あなたが去ったら、静かすぎる場所になりますね」
その不器用な言葉に、私は笑ってしまう。
「だから、去らないために勝ちます」
「ええ。そのためにいます」
監査前日の空は高く晴れていた。
明日で決める。誰の嘘で離宮が痩せ細っていたのか、数字と声の両方で。




