表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/40

第15話 離宮の使用人はもう黙らない

監査の前に必要だったのは、書類だけではなく証言だった。


 私は使用人全員を再び食堂へ集めた。ロザリンドは来ない。来たくないのだろう。代わりにバスティアンが顔を出そうとしたが、ユリウスが扉の外で止めた。


「これから話すことは、誰かを巻き込む可能性があります」


 私が前置きすると、空気が張る。


「それでも、見たことを話してほしいのです。夜に運び出された箱、消えた食材、偽の署名。私一人では足りません」


 最初に口を開いたのは台所係のベアトリスだった。


「砂糖樽を空にした夜、王都の馬車が来ました。伝票には“茶会用”とあったのに、翌朝には茶葉まで消えていました」


 次に庭師エルンスト。


「温室燃料を運ぶはずの荷車が、正門を通らず裏門へ回りました。命じたのはバスティアン殿です」


 侍女リナは、泣きそうな顔で続けた。


「ロザリンド様は、ご存じでした。“離宮なんて飾り箱だから、中身はどうでもいい”って」


 胸が痛んだ。けれど、それもまた記録しなくてはならない。


 マルグリットが最後に言う。


「私は長く仕えました。だから黙ってきました。ですが、これ以上は離宮に対して不実です」


 十分だった。


 私が頭を下げると、食堂の空気はむしろ軽くなった。ずっと喉に刺さっていた棘を、みんなでようやく抜いたような顔をしている。


 会が終わったあと、ユリウスが廊下で待っていた。


「よく集めました」


「私ではありません。離宮が自分で声を上げただけです」


「それを引き出した」


 彼はそう言ってから、少しだけ視線を逸らした。


「……あなたが去ったら、静かすぎる場所になりますね」


 その不器用な言葉に、私は笑ってしまう。


「だから、去らないために勝ちます」


「ええ。そのためにいます」


 監査前日の空は高く晴れていた。


 明日で決める。誰の嘘で離宮が痩せ細っていたのか、数字と声の両方で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ