第14話 近衛騎士が差し出した証拠
深夜、予想通り旧会計庫の鍵が壊された。
物音で飛び起きた私は上着を羽織り、回廊へ出る。すでにユリウスと二人の騎士が地下への階段を封鎖していた。床にはこじ開けられた錠前。だが箱は空だ。
「遅かったですね」
私が言うと、ユリウスは小さく頷いた。
「相手も」
捕まえたのはバスティアン付きの従者だった。脅されて鍵を壊したと、震えながら白状する。
「帳簿を持ち帰れば、公爵様から褒賞が出ると……」
やはり公爵家ぐるみだ。
翌朝、ユリウスはさらに一通の書簡を私へ渡した。公爵の私印入りで、離宮予算の一部を王都別邸へ“臨時転用”せよと命じている。宛先はバスティアン。
「どこで」
「昨夜の従者が隠し場所を話しました。バスティアンの鞄です」
私は書簡を読み、ゆっくり息を吐いた。
「これで主犯が確定します」
「まだ、ロザリンド嬢がどこまで知っていたかは曖昧です」
「でも、知らないふりはできません」
私は書簡を畳んだ。
「監査官へ全部出します」
「その前に、あなたへ確認したい」
珍しく、ユリウスの声に迷いが混じる。
「監査が終われば、あなたは王都へ戻される可能性があります」
「戻りません」
私は即答した。
「もう誰かの名を着る仕事は終わりです」
すると彼は、ようやく少しだけ表情をゆるめた。
「聞けてよかった」
「どうしてですか」
「守る場所が、離宮だけではなくなったので」
胸が熱くなる。けれど今は、その意味を噛みしめるより先にやることがある。
私は書簡と封蝋を並べた。
「では、守るために終わらせましょう」
ユリウスは静かに一礼した。
「命じてください、エルマ殿」
その瞬間だけ、替え玉でも会計官でもない、私自身の名がまっすぐ立ち上がった気がした。




