第11話 華やかな査察と沈まない笑顔
王弟妃エヴェリーナの一行は、昼前に離宮へ着いた。
磨き直した銀器、白薔薇、薄い蜂蜜菓子。どれも豪奢ではないが、丁寧に揃っている。応接間へ入ったエヴェリーナは、まず視線を部屋全体へ巡らせ、それから私へ微笑んだ。
「ロザリンド、静養中と聞いていたけれど顔色がよいのね」
「離宮の空気に助けられておりますわ」
偽物の名で答えながら、私は嘘の量を最小限に留める。
茶会は一見、穏やかに進んだ。地元蜂蜜の話をするとエヴェリーナは意外にも興味を示し、温室の白薔薇にも好意的だった。問題は、その横に控える事務官バスティアンだ。彼は茶器を置くたび、部屋の変化を落ち着かない目で追っている。
「近頃の離宮はずいぶん質素になりましたね」
その言い方は、探りだ。
「必要なところへ必要な分だけ回しております」
「公爵家のご意向とは違うような」
「離宮の帳簿に従っております」
私が微笑んで返すと、バスティアンの頬がわずかに引きつった。
茶会の終盤、エヴェリーナが温室を見たいと言い出した。私は内心で好機だと判断する。実際に整えた場所ほど、作り話に強い証拠はない。
「まあ、白薔薇がまだ残っていたの」
彼女が蕾へ手を伸ばしたとき、後ろで小さく何かが落ちた。バスティアンの懐から、粗い封蝋の欠片が転がったのだ。
私は見逃さなかった。
けれど拾ったのはユリウスだった。無言で懐紙に包み、何も言わず袖へしまう。
その連携に、私は表情を変えずに済んだ。
査察後、エヴェリーナは去り際に言った。
「以前よりずっと、この離宮らしいわ」
その言葉は本物だった。
一方で、バスティアンの目には明らかな焦りが浮かんでいた。
こちらの手札は増えている。
次に動くのは、きっと向こうだ。




