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時給700円の鬼狩者

 咆哮。そして、口から吐き出される黒い霧。


 巨大な鬼は、ナイトと輝鈴を敵と認めると、襲い掛かった。


 輝鈴は疾風のようにグラウンドを駆け巡り、鬼の攻撃をかいくぐり、背面に回りこむ。そして、空中に舞い上がると、刀を鞘に戻し抜刀の姿勢を取った。瞬く間に紫色の閃光を繰り出し、鬼の背中に直撃させる。


「月華美刃では、大したダメージを与えられんのか!? なんとタフな奴だ」


 輝鈴の攻撃が鬼に直撃するが、鬼は痛くもかゆくもないといった様子で、振り返り様、輝鈴に向って拳を繰り出してきた。


「くう!?」


 輝鈴はギリギリでそれをよけ、クリティカルヒットを免れたものの、拳の風圧でバランスを崩し、地面に墜落してしまう。


「犬神さん!」


 鬼の巨大な足が、アリを踏み潰すが如く、輝鈴に迫る。


「やらせるかよ、鬼公!!」


 ナイトは足に力を込めて、駆け出した。


 そして、落ちてくる鬼の足に向って、右手を思い切り突き出す。


「おおおおおおおお!!」


 力と力の拮抗が、地面に伝わり、ひび割れる。


 しかし、力の差は明らかで、ナイトの体は地面にめり込んで行った。


 いきなりピンチ。そんな単語がナイトの頭を横切ったとき、隣にいつもの悪ガキっぽい笑顔が現れた。


「バカ野郎。ちっとは周りを頼れっての」


「雫ちゃん!」


 雫はメモ用紙を取り出すと、そこにボールペンで『力』と素早く書きなぐり、それをびりびりと破り捨てた。破り捨てられたメモ用紙は一瞬発光し、光は雫の右手に収束され消える。


「ラスボスは全員で仲良くフルボッコのほうが、展開としては燃えるだろが」


 雫は両手を突き出し、ナイトと一緒に鬼の足を食い止めた。


「ここまでやってンだ。なンとしても、蒼樹の奴を更正してやるぞ。ぜってーユメヒコに入れて、レジでこき使ってやる、覚えてろ、ボケ!」


 ナイトと雫。二人の力で鬼は押し戻され、鬼は大きくバランスを崩した。


「勝機!」


 輝鈴は鬼の体を伝い、顔を目指す。


「一意専心……その不細工な面に見舞う!」


 しかし、鬼はそれを警戒して右手を輝鈴に伸ばした。


 輝鈴はそれを難なくよけるが、今度は左手が迫り、対応が遅れてしまう。


「く。……南無三!!」


 ライフルの発砲音。それと同時に、いちごの声がした。


「きりりん、油断しすぎぃ。いちごちゃんがアシ入れなかったら、今月何度目かの精肉コーナー行きよ~? あの子がレジに立てば、年上のおねーさんのハートをがっちりゲット! 来客数もうなぎ上り確定なんだから!」


「猿願寺……助かる!」


 輝鈴は再び舞った。


 鬼の不細工な面と距離が零になる。


 輝鈴は刀を抜き放ち、天高く掲げると、そこに持てる力の全てを注ぎ込み、瞳を閉じ、全てを刀身に託す。


 夜が明ける。そんな風に錯覚してしまいそうになるほどの、紫色の光り。


 それは、輝鈴の刀の刃からあふれ出し、十メートルはあろうかという、炎の刀身を生み出した。


死鬼砕裁しきさいさい……光栄に思え。この技で逝けることを」


 一閃。輝鈴は一撃を加えると着地し、刀を鞘に戻した。


 鬼は顔面に強力な一撃を受け、全身から黒い霧を噴出しながら、もがき苦しんだ。


「……終わり、だな」


 輝鈴が鬼の断末魔を目の前にして、勝利を確信すると、前のめりに倒れる。が、ナイトがそれをとっさに支え、倒れることはなかった。


「大丈夫、犬神さん!?」


「ああ、大丈夫だ。当分、クリンネスタイムに参加するのは無理かもしれんがな……」


 疲労困憊を全身で表現するかのように、輝鈴は汗をぐっしょりとかき、荒い息でそれに答えた。


「しかし、これで騒動の原因を解決することはできた。これでしばらくは……。!? 桃山!!」


「え?」


 急にナイトは輝鈴に突き飛ばされた。ワケがわからずグラウンドをころころと転がるが、鼻先を鬼の巨大な拳がかすめ、事態を理解する。


 まだ戦いは終わっていない。鬼は依然健在だった。


「犬神さん!」


 鬼の拳が直撃した地面は、土煙を上げ、その下にいたであろう輝鈴の姿は、どこにも見つけることはできなかった。


「ナイト! 輝鈴は無事だ。俺が安全な所まで運ぶから、お前も後退しろ!」


 土煙の向こうから聞こえてくる雫の叫び声。


 後退。それが指し示すところはただ一つ。


 紫を諦める、ということ。


「嫌だよ、そんなの! せっかく、ここまでやったんじゃないか! あと少しで……あいつを倒せるのに!! オレは、最後まで諦めたくない!!」


 ナイトが叫ぶ。それに呼応するかのように、どこかで声がした。


 『助けて』、と。


 それが、鬼の中から聞こえてくる……まるで、紫が助けを求めているように。


 だが、鬼は感傷に浸るほどデリケートな存在ではなく、ナイトに向って翼を広げると、そこから紫炎の羽が発射される。


「いちご! この前俺ちゃんから没収した携帯! ぼーやに向って投げて! 早く!!」


「あ、ああ!! はい~!」


 大和が叫ぶ。


 それを受けたいちごが、指示通りナイトに向って携帯を投げる。


 大和はナイトの目の前で携帯をキャッチし、ナイトを守るよう、前に立った。


「鬼に金棒」


 光りの壁が、ナイトを業火から守る。


「店長……」


「ぼーや。ここまでお前ちゃんらで意地を貫いたんだ。貫いた意地は、最後まで貫き通しな。諦めるのは、汚いオトナだけで充分なんだよ」


 大和は振り向かず、バリアを前面に張り、背中を向けたまま、そう言った。


「はい!」


「だいじょーぶだいじょーぶ。ぼーやならやれるわよ。なんてったって……地球連邦軍大佐なんでしょ? せっかくあの履歴書、俺ちゃんのブログに載せたんだから、勝利してあとで見なさいよ」


 ナイトはそれに返事せず、鬼の攻撃が止むのを確認すると、駆け出した。


 どうすればいいのか、わからない。


 けれど、やるべきことは決まっている。


 あいつを、倒す!


 そして、紫を助ける!


 ポジティブシンキング。ナイト唯一の長所である。


 ナイトは願った。


 紫を助けたい。その為の力が欲しい。


 ナイトは願った。


 みんなを守りたい。その為の力が欲しい。


 ナイトは願った。


 誰の涙も見たくない。みんなで笑っていたい。その為の力が欲しい!


 黒い霧がナイトの左腕に収束する。右腕同様、左手も銀色の塊となり、鋭い爪が生え出る。


 さらに、瞳の色は両目とも紫色に染め上がり、髪は銀色となった。


「心を鬼にして」


 鬼の右手が動く。轟音を上げながら迫るそれを左手の掌のみで受けると、握りつぶす。まるで、泥の塊のように脆く崩れ去る鬼の右手。


「オレの邪魔を……するな」


 今度はナイトから仕掛ける。右の手に備えられた爪は、紫の炎を帯びて長く伸びる。それをそのまま鬼の右足と左足を抉り取るように閃かせ、両足を奪った。


 それでも、まだ鬼は動く。翼から発射される炎の羽を、シャワーのようにナイトへ浴びせる。


 ナイトはそれを紫の瞳で一つ一つ確認すると、瞬時に移動し、炎の隙間を縫うように走った。


 銀色の風が、闇の中を駆ける。死神の鎌よりも凶悪な爪を煌かせ、ナイトは鬼の背後に回りこんだ。


 間髪入れずに、そのまま背中に向って爪をめり込ませ、翼をもぎ取る。


 鬼は成す術がない。残された体のパーツは、頭と胴体と、左手のみ。


 ナイトは、トドメを刺すべく頭部に向って飛んだ。


 その瞬間、再び声が聞こえた。


『……君は誰? 誰も、ぼくのことなんて、本当のぼくのことなんて、考えてくれないのに。君は、どうして?』


 鬼の巨大な一つ目の中に、紫の泣き顔が写る。


 ナイトは答える。迷いのない、澄んだ瞳で。


「オレは時給七百円の鬼狩者、桃山ナイト。君の……友達だ!」


 ナイトが右の爪を思い切り頭部に向って振りぬいた。


 鬼はその一撃を食らい、今度こそ、浄化される。


 鬼の断末魔が響く中、大和はたばこの煙を肺にめいっぱい吸い込むと、ぼそりと呟いた。


「マヤちゃの言うとおりだったかー。あれが……十五年前、真鬼をその身に宿された少年、桃山ナイト。とんでもない拾い物だ。あはは。あっちの美少年のこともあるし、これから……しんどいことになりそーだ。やれやれ、残業だけはマジ勘弁」


 大和はたばこの吸殻を地面に捨てると、それを靴底でゆっくり踏み潰した。

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