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決意を胸にラストバトル

 ナイトはいちごの回収を雫に任せ、輝鈴の元に向った。そして、彼女の元へたどり着くと、体をゆすり、意識を目覚めさせる。


「犬神さん! 起きて。ねえ、起きてよ!」


「む、う? ここは……おい、外道は……蒼樹はどこだ!? あいつは……」


 輝鈴は目を覚ますと、立ち上がり、ナイトを押しのけて周りを見回した。


「今、店長が戦ってる。あ、ちょっと! 犬神さん、どこへ行くのさ!?」


 急に動き出した輝鈴の袖をつかみ、ナイトは落ち着かせる。


「そうか。ならば一安心……と思いたいところだが……様子を見に行くぞ。クリンネスタイムはまだ終わってはいない。それに……あいつの、蒼樹の負は……計り知れないモノだった。柴雁の鬼に金棒でも、あれは――」


 輝鈴の言葉は無邪気な笑い声によって、遮られた。高く、愛らしい少年の声に。


「あははは。ねえ、それ。ぼくの陰口? ムカツクなあ。本当にうざいよ。そういうの」


 ボロボロになった紫が、ナイト達のすぐ真後ろにまで迫っていた。


「え? 蒼樹、くん? 店長は?」


 紫はゆっくり親指を後に向け、愛らしい笑顔で残酷に笑う。


「オジサンなら、動かなくなったよ。あいつは後でじっくり殺してやるさ。ぼくを止めるなんて、できっこないんだよ、誰にも!」


「うわ!?」


「む!?」


 黒い風が紫から発せられ、ナイトと輝鈴は数メートル吹き飛ばされた。


「ぼくをいじめる奴は許さない。ぼくは、ぼくは、男なんだ。女じゃない……! 殺してやる、全員! ぼくをバカにして、いじめる奴は全員!!」


 怒気を含んだ紫の声がグラウンドに響く。


「ぼくを入学式の初日にバカにしてきた、野球部の連中も、陸上部の連中も、許さない! コンビニの店員も、強盗も! ラブホテルのカップルも! この街の全員がぼくをいじめる。女みたいな男だって! だから……全員死んでしまえばいいんだ!!」


 ナイトはうつ伏せになったままそれを聞くと、考えた。今までクリンネスタイムで遭遇した事件は、どれもこれも紫をバカにした相手が被害者だった。


 女の子のような容姿が、紫にとって最大のコンプレックス。


 生まれてから一生付き合い続けなければならない、自分自身の一部。


 似ている。自分と。


「蒼樹くんは……オレと、同じだったのか……」


 ナイトはふと、中学時代のことを考えていた。桃山ナイト。それは生まれた時に付けられた自分の名前。一生付き合っていく自分の名前。


 チキンナイト。ヘタれ。バカ。


 この名前のせいで、中学時代はネタにされ、いじくられ、散々バカにされてきた。暴力を振るわれたことだってある。


 両親の離婚を期に、一人祖母の元へやって来たのも、中学時代の自分から離れ、新しい自分に生まれ変わってやり直そうと思ったから。


 アルバイトを始めたのも、単純に金を稼ぐだけでなく、誰かに必要とされたかったから。


 鬼狩者を続けているのも、自分を皆に、特に輝鈴に認めさせたかったから。


 だから、ここにいる。


 そして、今。騒がしくも楽しい日常を過ごし、バイト仲間であり、クラスメイトであり、ご近所さんである三人の少女達が側にいる。


 彼女らと出会わなかったら、今の自分はここにいなかったろう。


 それどころか、紫同様外道と成り果てていたかもしれない。


 あの日、スーパーユメヒコで買い物をした帰り。輝鈴に付いて行かなければ、このグラウンドで鬼となっていたのは、自分。


 自分と紫は同じなのだ。


 そう考えると、目頭が熱くなった。心の奥が痛くなった。


「蒼樹。お前にどんな過去があろうとも、道を外した者に残された末路は滅のみ。引導は……この、犬神輝鈴が渡してやる」


 輝鈴は立ち上がると、刀に手を携え、抜刀の体勢に入った。


 それを見て、ナイトは慌てて立ち上がり、輝鈴に向って叫ぶ。


「待って、犬神さん! 蒼樹くんはオレと同じなんだ! 滅するなんて……助けてあげることは、できないの!?」


「助ける、だと? 阿呆か、お前は! 敵対する鬼は全て滅する。それが封印四家に課せられた使命。やる気がないなら桃山……今すぐユメヒコの名札を外し、バイトをやめろ」


 輝鈴は聞く耳持たずといった様子で、ナイトと目も合わせようとしなかった。


「そんな……」


「ホラね! 所詮、鬼狩者なんて、そんなモノさ! だから、ぼくは、お前達を一人残さず殺してやるって決めたんだ!」


 紫が叫ぶと同時に、翼から炎の羽を、輝鈴に向けて発射した。


「く、これでは……近づけん」


 輝鈴は炎の羽を避けるが、一斉に発射されたそれに対応するのが精一杯で、自分の間合いに持っていくことができず、攻めあぐねていた。


 だが、槍のような風が真横から炎の羽を吹き飛ばし、一発の銃弾が紫に命中したことで、形勢は逆転する。


「忘れてもらっちゃ困るな、俺といちごを」


「さっきはうっかりうっかり♪ けど、サイキョーないちごちゃんはあの程度では、くたばらんのですよ!」


「でかした、木地、猿願寺! このまま一気に畳み掛ける!」


 雫といちご。二人が戦線に復帰した。それを機に、輝鈴は大きく踏み込む。


「ふざけるなよ、お前ら……! よってたかって、ぼくを!! ぼくをいじめるのか!」


 紫は憎悪に満ちた顔で空を見上げると、叫んだ。


 叫んだと同時に、紫の口から黒い煙が吐き出され、それが接近していた輝鈴を吹き飛ばし、いちごと雫も後退した。


 煙はグラウンドの上空を停滞し、やがて巨大な人型を形作ると、紫は気を失ってその場に倒れた。


「何だ、あれ?」


 ナイトは、グラウンドの上空に現れた巨大な人型を見上げて呟いた。


 全長は十メートルくらいある。灰色の皮膚に、巨大な二本の角。ぎょろぎょろと動く一つ目。背後に翼を備えたそれは、巨大な鬼。


「あの美少年の負の塊ってことよ。ついに外道本体の許容量を超えて、吐き出されてしまった……ってとこかなあ」


「店長!? 無事だったんですね」


 ボロボロになったカッターシャツを体に引っ掛けた大和が、ニヤケ顔でナイトの肩をぽんと叩いた。


「おおよ。知らねーのか? イケメンは不死身なんだよ。まさかまさか、俺ちゃんの携帯が鬼に金棒の途中で電源切れちゃうなんて……うかつだったわー。ちゃんと充電しておくべきだったなー。女の子とお電話は控えないとね。うっかりうっかり」


「そんなことはどうでもいいんです! それより……蒼樹くん、どうなっちゃうんです?」


「んー? まあ、このまま殲滅、かなあ。実体化しちゃったあの巨大鬼は、確かに戦闘力ヤバスだけど、本体の……あの美少年の命を絶てば、消えちゃうからね。むしろ、今の状態の方が好都合だったり」


「え?」


「外道になった人間は通常、処理される。命だけじゃなく、木地家の言霊の力で、存在そのものを記憶から消し去るんだよ。今までもそうだった。一歩間違えば、ぼーやもそうなってたかもね? 封印四家にとって、自分達に従わない鬼の力を持った者は、イレギュラーでしかない。だから、『外道』と言うんだよ。封印四家の引いた道から外れた者……ってね。そっちが本来の意味なのさ」


「それじゃあ、店長達はどうなんですか!? 自分たちも鬼の力を……負の力を使っているのに」


「俺ちゃんらは、精神的な修練を子供の頃から積んでいるからね。負の力に心が負けることはない。けれど、それでももし、外道に成り果てる時があったら――覚悟はできてるよ。輝鈴も、いちごも、雫も、ね」


「そんな……オレはそんなの……嫌だ」


「ま、そういうわけさ。陽動は俺ちゃんがやる。お前ちゃんらはその間に……あの美少年を始末――」


「助けたいんです」


 ナイトは、大和の言葉を途中で遮った。そして、決意に満ちた瞳で大和の目を射抜く。


「んあ?」


「蒼樹くんを、オレ……助けたいんです」


「それ、けっこう難易度高いのよ? おそらく、負の塊となったあの巨大鬼を浄化すれば、あの美少年は実質鬼ではなくなり、普通の人間として、元の生活に戻してあげることができるだろう。けれどけれど、あれは剛鬼でも最上級の部類に入るといっても過言じゃないね。携帯が使えない今、俺ちゃんでもあれには歯が立たないわ。それでもやりたいなら……止めないけど?」


「わかりました」


「そうそう、わかればいいのよ。んじゃあ、俺ちゃんが陽動するから――」


「オレがあいつを倒します」


「んあ? ちょっと待って、今の言葉もう一回言ってみようか」


「オレがあいつを倒します。大事なことなので、二回言っておきますね」


 ナイトは一歩踏み出した。確かな決意を込めて。


「ちょっとちょっと。何かっこ付けてんの? 死ぬよ、けっこうマジで。それこそ、さっきみたいなケガじゃすまないのよ?」


 ナイトは振り向かず答える。


「オレ、ヘタれはもう卒業したんです。それに、蒼樹くんは友達だし。一緒に掃除して、一緒にゲーセン行って、一緒に授業受けて……人生で初めてできた、友達なんです。なにより……一歩間違えれば、あそこで気を失っていたのは、オレだったかもしれない」


 ナイトは振り向き、真面目な顔つきで宣言する。


「だから、助けるんです」


 大和はナイトの目を見ると、大きく溜め息をついた。そして、ニヤケ顔をやめ、真剣なオトナの顔になって口を開く。


「お熱いね。そこまで言うんなら、止めはしないさ。けれどけれど……俺ちゃんが無理だと思ったら、すぐにあの美少年を処理するぜ? ぼーやは、まがりなりにも大切な俺ちゃんの部下だからな」


 セリフが終わると同時、大和の顔はいつも通りのニヤケ顔になって、ナイトを優しく見つめる。


「……わかりました。でも、絶対にそんなことはさせません、蒼樹くんは、オレが助ける」


 ナイトは駆け出した。そして、鬼の足元まで来ると立ち止り息を整える。


「桃山。加勢するぞ」


「犬神さん? どうして」


 ナイトの真横に輝鈴が立ち、巨大な鬼を見上げながら答えた。


「お前がさっき柴雁に言った言葉……自分にも聞こえていた。一緒に授業を受けて、一緒にゲームセンターで遊び、蒼樹と同じ時を過ごしたこと。自分も思い出した。……そうだな。確かに、お前の言う通りかもしれん。外道である前に、蒼樹は近しい友であった。その友の隠れた悩みを見抜くことも出来ずして、何が日本女児か。友であるならば、滅よりも更正。腐った心根、叩き直してくれる。それに、自分とて、人死には好まんし……なにより、最初のクリンネスタイムの後、お前と約束した。守ってやる、とな」


 言い終えると、輝鈴は優しく微笑み、ナイトの手を握った。


「犬神さん……うん! 行こう」


「ああ」


 二人は鬼を見上げる。そして。


「心を鬼にして」


「鬼の目にも涙」


 鬼の力をその身に宿し、駆けた。

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