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学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
最終章「世界の中心で愛を叫んだ少女」
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第30話「日常の中心で叫んだ少女」 『最終章エピローグ』



 あの非日常的な騒動から、数日が過ぎた。

 魔王の魔法により生気を奪われて、世界中の人々が朦朧としていたため、あの日宮子達の町で起きた騒動は明るみに出ていない。

 一部で「魔法少女や変身ヒーロー、他にも様々な超常現象を見た」と証言する人々はいたものの、明確な証拠もなく、そもそも証言者自身の記憶があやふやなため真実は判明していない。

 テレビでは「集団幻覚の類でしょう」と結論付ける声が大多数であり、結局は不思議な出来事なんてなかった、というのが世間の認識だ。

 人的被害が世界全体で一切なかったこともあり、多くの人の意識が混濁したという不可思議な現象が起こった、ということだけが騒がれている。

 証言の中にはとあるパイロットの「飛行機を操縦中に意識が朦朧とした時、天使が現れて助けてくれた」というようなものもあったが、映像等の記録は一切残っていないため、この証言もまたやがて忘れられていくのだろう。



 栗原綾はあの後警察に自首して、罪を償う姿勢を見せている。

 積み重ねた罪状は多く、未成年であることを考慮しても長期間の刑期は不可避であるとされているが、それを聞いても本人は「きちんと、罪を償います」と反省の意を示しているそうだ。

 現在は再度の逃亡を防ぐために以前使われた拘置所よりさらに厳重な警備が施された場所にいるそうだが、詳細は不明である。



 世間を、世界を騒がせた騒動も無事に終わった。

 異世界から運命に導かれてやってきた勇者の仲間達も、元の世界へと帰っている。

 杉野宮子達の平穏な日常は、戻ってきたのだ。

 少しばかりの、変化を伴って。



  〇



「勇人、もう朝だよ? いいかげんにしないと遅刻する」


 杉野宮子は、ベットでいびきをかく勇人の身体を揺すりながら声をかけていた。

 勇者だなんて信じられないようなだらしのない格好で「あと5分……」などと寝言をのたまう勇人に、宮子は呆れた様子で溜め息をつく。

 以前までは勇人の妹である愛の役目であった勇人の起床は、恋人となった宮子に譲り渡されていた。

 最初の数日は「宮子にだらしない格好見せたくない!」とはりきって起きていた勇人だったが、3日ともたず元のだらしない生活へと戻っている。


 宮子はとっておきの手段に出ることにした。

 勇人の眠るベット……その下をごそごそと探り、目当ての本を見つけて手元に引き寄せる。

 そして勇人の耳元でよく聞こえるように、その本のタイトルを読み上げた。


「純情メイド物語、ご主人様専用にく」

「わああああ!?」


 一瞬で目を覚ました勇人が、慌てて飛び起きる。


「お、おま、男のお宝勝手に発掘してんじゃねえ!?」

「勇人が起きないのが悪いんでしょう? あと、おはよう」


 ぱらぱらとページをめくりながら悪びれもせずに返事する宮子。


「……男の子って、こういうのが好きなの?」

「それは人によるといいますか……てか女の子が堂々とそんな本読まないで!?」


 本のどのページをめくっても溢れているメイド服を着た少女の姿を見ながらじと目で言う宮子。

 そんな彼女はやがて、ベットの上でうろたえる勇人を、床から見上げるような視線で。


「――今度、着てあげようか?」


 そんなことを、言ってみた。


「…………」

「…………何、顔真っ赤にしてるのよ」

「お、おまえこそ、自分から言い出しておいて、顔真っ赤じゃねえか」


 互いに赤面しながら見つめ合う二人。

 そこへ。


「ふたりともー、そろそろ行かないと遅刻だよー!」


 愛の声が1階から響いた。

 時計を見ると、もう出発しないと危ない時間だった。

 身支度を整え終えてる宮子はともかく、勇人は大慌てで用意を始める。


 その後、リビングの机に用意されたトーストを牛乳で流し込み、勇人は慌しく駆け出す。


「い、行ってきます!」

「お邪魔しました。行ってきます」

「行ってらっしゃい! 車には気をつけてね!」


 九条家の面々に送り出されながら、勇人と宮子は通学路を駆けていった。



  〇



 なんとか閉門時間前に間に合った二人に、少女が声をかける。


「よ、お二人さん! 今日も元気だねえ」


 勇人達に声をかけてきたのは、前田加奈子だった。


「まったく、杉野さんも毎朝大変だよね。こいつ本当だらしないんだから」

「本当に、ね。たるんでるよ」

「ふ、二人とも、もうちょいオブラートに包んでもらえませんか?」


 うなだれる勇人の頭を加奈子がぺちんと叩いて「嫌ならしっかりしなさい!」と激励を込めるように叱咤する。

 やがて予鈴がなって、周囲の学生達が慌しく動き出す中、加奈子もまた勇人達を追い越して駆け出す。

 しばらく進んだ後、振り返りながら。


「杉野さん、その馬鹿のこと、よろしく頼むわね!」


 泣きそうな笑顔で、そんなことを言った。

 宮子はその顔に思わず謝りそうになって――そんなこと相手が望んでいない、と思い直す。

 だから、せめて満面の笑みでしっかりと宣言する。


「うん、絶対に幸せにするよ」

「あはは、ばーか! 女の子は幸せにしてもらう側でしょう!」


 宮子の言葉に努めて明るい声で返事しながら、加奈子は背を向けて走っていった。

 加奈子が勇人を好いていたことは、渚達からも聞いている。

 そんな勇人を自分が奪ったような立場になって、悩みもした。

 だけど、申し訳なさそうに過ごすのも誠意とは違うような気がして。

 宮子はせめて、精一杯の感謝を胸に秘めて、幸せになろうと、心に誓ったのだ。

 自分達の幸せを望んでくれる人達のためにも、そうするべきだと思ったから。


「……じゃあ、宮子。また後でな!」

「うん、またね」


 クラスの違う勇人と別れて、それぞれの教室に向かう。

 本鈴の時間まで、あと少しだった。



  〇



「みやちゃん、おっはよー!」


 宮子が教室に入ると、由美の明るい声が響いた。

 クラスのムードメーカーである彼女の声にクラスメイト達も明るい様子で挨拶してくれる。


「みんな、おはよう」

「おはようございますわ。今日もぎりぎりセーフでしたわね」


 真理冶も声をかけてくる。

 以前までは余裕を持って登校していた宮子だったが、勇人と登校時間を合わせるようになってからは遅刻寸前になることが続いていた。

 その理由も、既に学園中に知れ渡っている。

 九条勇人も杉野宮子も、色々な意味で学園の有名人だ。その二人が恋仲となったことはどこからか露見して、学園の噂話として様々な生徒の話題となっていた。


 魔王や勇者についての記憶は、みんなの中に残っていないらしい。

 絆の力をくれた由美や真理冶も、なんだかすごくだるかったことと、変な夢を見た気がする、とは言っていたけれど。

 だから勇人が勇者だとかなんだとか、そういう話は広まっていない。

 学園の鈍感モテ野郎こと九条勇人と、必殺仕置き人なんて変な渾名をつけられた杉野宮子として、二人は今日も学園に通っている。


「おい、おまえら席につけー。ホームルーム始まるぞー」


 本鈴が鳴って、教室の扉が開く。担任教師である早野茜が出席簿を片手に入ってきた。

 談笑していた生徒達も着席して、いつもの朝のホームルームが始まる。



 平穏な日常の有り難さを感じながら、宮子はふと窓の外を眺めた。

 7月に入って既にしばらくの時が過ぎた。もうすぐ夏休みもやってくる。

 色々と、大変なことがあった今日までの日々を思う。

 魔王が消滅したことで、この世界における魔物の出現も鳴りを潜めたらしく、日常の裏で誰かが戦う必要のない平和が戻ってきたらしい。

 何もかも元通り、というわけにはいかないかもしれないけど。

 やがて時が過ぎれば、この数ヶ月の騒動も懐かしい思い出となっていくのだろうな、なんて未来に想いを馳せてみる。

 未来がどうなるかなんて、まったく分からないけれど。

 いつか遠い未来で、思い出となった日々を振り返りながら、大切な人達と語り合えたら――そう思う。

 この平穏が、いつまでも続いていきますように、と。





「――おい青春ガール宮子、優雅にたそがれてないで話聞けよー」

「は、はい、すいません!」


 先生の呼び声で我に返り、宮子は謝罪しながら前を向いた。

 つい物思いに耽り、先生の話を聞き逃していた。

 起立して頭を下げた宮子だったが茜は「いいや許さん」と何やら手元の機械を操作し始めた。


「教師の話を無視するようないけない生徒には……おしおきだな」


 ぽち、と。茜が何かのスイッチを押すと、黒板前にスクリーンが落ちてきた。

 授業などで使われる、DVD教材用のホワイトスクリーンだ。

 そしてそこに、とある映像が再生される。


『私、勇人のこと――大好き!』


――大空を背景に告白している、杉野宮子の姿がでかでかと映し出されていた。


「……な、なな、なんで!?」

「お前の姉ちゃんとはポケロボ仲間でさ、先日面白い映像もらったから個人的に楽しんでたんだけど……独り占めはよくないよなあってことで大公開だおらあ!」


 無駄にノリの良いクラスメイト達が歓声を上げて映像をじっくりと鑑賞している。

 映像は何度もリピートされて、終わりにしてくれる様子はまるでなかった。


「いやー、しかし背景は編集したそうだけど、杉野達は無修正の本人出演なんだろ?

 大人しい杉野がこんな乙女な顔で告白するなんてなあ。彼氏いない暦=年齢の先生に喧嘩売ってるのか?」


「先生彼氏いないんですか? じゃあ俺が立候補します!」

「いやいや、ここはおいらだろ!」

「……あ、僕もう彼女いるからパスで」

「「!?」」


 騒がしくなる教室の中で、宮子は赤面しながら慌てふためく。

 映像を止めようにも教卓と宮子の席は離れており、近づこうにも映像を見るためにクラスメイト達が教卓前に押し寄せていて人が密集して壁となっている。

 どうやってこんな映像を取ったのだろうか、と現実逃避ぎみで思考するが……あの時、晶子は全身を機械である強化服パワードスーツで包んでいた。

 何かしら、遠隔操作のできる録画機能付きの小型機械でも装備していたのかもしれない――帰宅したら問い質そうと決めた。

 とはいえ、現状ではどうしようもない。ただうろたえながら、真っ赤な顔を隠そうと両手で覆うくらいしかできなかった。


「わあ、宮子ちゃん顔真っ赤! いつも冷静な宮子ちゃんのこんな顔、激レアだよ!」

「九条勇人、もげろおおおお!」

「ちょ、響ったら変なこと叫んでんじゃないわよ!」


 顔を隠そうとも、宮子自身の告白の言葉とキスシーンが何度も繰り返してスクリーンに投影される。

 きゃあきゃあというクラスメイト達の歓声が、いつまでも続いて。


「も……もうやめてー!」


 たまらず、宮子は叫ぶのだった。

 その姿に、絆を紡いだ人々から力を託されて、勇者と共に魔人に立ち向かった戦士の面影はない。

 そこにあるのは、穏やかで賑やかな日常の中心で生きる、どこにでもいる一人の少女……杉野宮子の姿だった。


これにて本編完結です!

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!

シリーズを通したあとがきや番外編は、また後ほど書きたいと思います。

また、現在ファンタジー要素を取り払った別展開版の連載も考えており、別の形でまた宮子たちの物語を描けたらと考えています。

もっと他の物語もいくつか構想を練っており、これからも執筆を作者自身楽しんで続けていきたいと考えています。

この迷走する物語に最後までお付き合いしてくださり、本当にありがとうございました。こんな作者ではありますが、よろしければ今後ともどうかよろしくお願いします!

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