「誰かを守るということ」②
「ドラ」
俯いてしまっていたラヴァンドラを呼んだその声は、安心をもたらすようにラヴァンドラの中にとても心地よく響くもの。そして、伸びてきた影に思わず頬を緩めた彼女の見上げる先には、もちろんここの前領主であるルディがいた。
「じぃじ……」
しかし、祖父の顔を見たラヴァンドラの声は、すぐに萎み頼りなく響いた。
ルディが救世主のように思えたことも、ひとりじゃなくなったことに安心したことも、確かだった。それなのに、ラヴァンドラの頬は自然とぷくっと膨らんだ。そして、『つん』とした返事を返してしまう。
「じぃじ。わたしは『ドラ』とは呼ばれたくないのです。ドラはかわいくありませんので、ドーラとお呼びくださいませ」
ルディの来訪に安堵したはずなのに、どうして発せられた自身の声がチクチクしているのかと、胸の奥がしくしく痛んだ。
――だけど、ドラと呼ばれたくないということも、じぃじは知っていますのに……。
最近のラヴァンドラはそんな気持ちになってしまう。
いつもちゃんと認めてもらえない、そんな思いになる。だから、自分を認めてもらいたいがために余計にキミィを守ろうと思うのだろうか。そんな自分も嫌い。
キミィのこともちゃんと好きなのに。
お友だちでいたいと思っているのも、本当なのに。
ラヴァンドラの頬は無意識に膨らみ、口までも頬につられるようにしてとんがってしまう。
「あぁ、そうだったね。じゃあ、ラヴァンドラ。今日はふたりだと聞いてね」
そう、それでも誰も『ドーラ』とは呼んでくれない。
「セーブルはご実家のお手伝いが外せないそうですので……」
目を合わせること、そんな簡単なことすらできなくなったラヴァンドラは、目を伏せたまま逃げるようにして、キミィに視線を向けた。キミィはほわほわ笑っていて、やっぱり見ているのか見ていないのか分からない瞳を、ルディではなくラヴァンドラに向けていた。
キミィは、わたしを見てくれているわ。
そんな不確かな自信だけを頼りに、ルディをもう一度眺める。
「あの子も忙しい身だからね。だから、今日はじぃじが護衛をしようと思ったんだよ」
ルディの言葉に首を傾げながらも、ラヴァンドラの視線は気持ちとともに上にあがった。
それなのにどうしてか上手くいかない。大好きな祖父。それなのに、その祖父の優しい笑顔でさえ胸が詰まりそうになる。真っ直ぐ見られなくなる。祖父の言葉に『わたしのことなんて何も分かっていないじぃじ』そんな風に思ってしまうのだ。
そして、最近のラヴァンドラは、そのよく分からない場所から立ち去りたくなってしまうのだ。だけど、逃げ出したらディアトーラの夜に使われる蝋燭の灯を消してしまう時のように、闇の中に入ってしまう、お化けの夜が来てしまう、そんな恐怖すらあるような気もする。だけど、だからラヴァンドラの気持ちは『ぷん』のままだ。そうしておかないと、本当に何も言わずに立ち去ってしまいそうなのだ。
だけど、急にいなくなったら、きっとじぃじは傷つくわ。じぃじは優しいもの。
「だけど、じぃじ。ときわの森に棲む魔獣はお庭には来ないのでしょう? わたしは、ひとりで大丈夫。ちゃんとできます」
自分の中での妥協点を見出そうとして、見つけられず、ラヴァンドラは口をとがらせたまま、ルディに返事をしていた。
「ははは。ラヴァンドラができないと思っているわけじゃないよ。だけど、魔獣に関しては絶対じゃないからね。みんな大切なお姫様方を森に奪われたくないんだよ」
ルディはラヴァンドラに屈託のない笑顔を向けて、だけど、その宝物の横に――キミィがいるそこには腰を下ろさずに続けた。
「それに、護衛が付けば、町に下りられるし、セーブルと違ってじぃじなら、ラヴァンドラに使えるお小遣いだってあるんだよ? どうだい? じぃじとのデートへ行くかい?」
だけど、その少し茶目っ気のあるルディの笑顔に、ラヴァンドラも思わず「ほんとうに? ぜひ、行きます」と表情をほころばせてしまった。
「じゃあ、出発しようか。かわいいお姫様たち」




