「ラヴァンドラの怖いもの」②
それから、ラヴァンドラがディアトーラに着いて、三日が過ぎたその頃。
リディアスから、一通の手紙が届き、そこに『魔女』のことが書かれてあったようだ。
リディアスにも新しい時の遺児が現れ、魔女狩りが行われた。
どんな魔女狩りだったのか、ラヴァンドラには知らされなかった。
だけど、祖母のルタが語る昔話の魔女狩りは、ラヴァンドラにはとても恐ろしく、ルタの語り方のせいだったのかもしれないけれど、尋ねてしまったことを後悔するくらいだったことは、今でも覚えているのだ。心臓は何かに掴まれたかのようにきゅうぅと縮んで、ドキドキと胸を打ち始めたし、語り部であるルタの腕にすがって泣いてしまうくらいに怖かったことも、覚えている。
ルタはそんなラヴァンドラを優しく撫でて「おしまいにしましょうね」と、ラヴァンドラの肩をさすってくれていた。ルタは魔女のラルーだった人。だけど、ラヴァンドラにとっての祖母は優しいだけの、大好きな人だった。
祖母と同じ『魔女』とされる者が、魔女狩りにあった。だから、今回の魔女の結末を知りたいような、知りたくないようなそんな気持ちになってしまう。
リディアスに留学している兄マルバなら、知っているのかもしれないと思ったが、ラヴァンドラ宛てにそのような手紙も届いていないし、手紙を書くこともしていない。
再来年に留学する予定のラヴァンドラには、リディアスの日常が綴られた手紙が、兄からよく送られてきていたというのに。
そういうものも、最近はない。
だから、今は、書いてはいけないのかもしれないと思ったのだ。
――きっと、魔女に似ているわたしがお手紙を書けば、ご迷惑になってしまうのですね。
その頃から、じわりじわりとラヴァンドラの『魔女狩り』への不安は大きくなってきていた。
ディアトーラに届いた手紙の差出人はリディアス国王イワンの右腕と言われているロアン・ウィシュトリア卿。ルカはクロノプス家の養子だったため血縁はないが、家というつながり上、又従兄弟でもある方。もちろん血縁上のグレーシアの又従兄弟でもある。
だから、血のつながりがある母がリディアスへ向かったのだ。
――“ラヴァンドラ”のために。
おそらく……そうなのだ。
「心配しなくても、ロアン様はご自身の保身のためにわたくし達を使うことはありませんからね」
そして、グレーシアの会話の中にも、ルカの会話の中にも、ロアンは『良い方』として存在する。
ロアン・ウィシュトリア卿。現リディアス国王イワン陛下の従甥にあたる方。
誰にでも優しいお方だと。奥さまとされる方がたくさんいらっしゃる方だと。
グレーシアもそれを優しいと言うのだけれど、ラヴァンドラ自身は、そんなところに嫌悪感を覚えている人物でもあった。
大好きな人がたくさんいるのは良い。
ラヴァンドラにも大好きな友だちはたくさんいる。
でも奥さまがたくさんいるのは、なんだか嫌。そんな風に。
しかし、なぜか、ふたりともそんなロアンを好ましい者としてお喋りする方。
ロアン様がいるから、イワン陛下とも話ができる、と。
そして、ふとセーブルを思い出した。
そう、セーブルとキミィとは、同じ日に出会った。
マナのお手伝いをするために、ラベンダーの籠を運んでいた時だ。
籠の中に蜘蛛がいて、思わず籠を落としてしまった時。
思わず放り投げてしまった籠に近づけず、蜘蛛を追い出そうと説得していた時、ラヴァンドラを最初に見つけたのが、キミィだった。
『お姫さまは、蜘蛛とお喋りできるの?』
それがキミィの第一声。
そして、答えたラヴァンドラにキミィは首を傾げた。
「お姫さまは、私が見えるの?」
そう言ったキミィが、蜘蛛を追い払ってくれた。そして、セーブルがラヴァンドラの騒ぎを聞きつけて、現れたのだ。
「誰と喋ってるんだ? お前……」
と。
その時のセーブルは、ラヴァンドラを『誰』とは認識していなかったし、キミィも視えていなかった。
今はキミィの存在を知っている。だけど、あの時のセーブルは、ただ気配を感じられる男の子でしかなかった。
――キミィは……ここでは、見えてないお化け……なのかしら?
そう思って、慌てて否定する。だって、セーブルはキミィがいると言いますもの。
もう一度、掛布団を鼻の辺りまで下げたラヴァンドラは、闇の中の存在しないお化けを見つめた。
怖くなんてないわよ。お化けなんていないのですもの。キミィは、ちゃんといますもの。
そう言えば、わたしのじぃじは、イワン国王陛下の従兄弟でもありますが、セーブルのじぃじとも従兄弟だったわ。ということは、わたしはセーブルと家族ですのね。
「もしかしたら……『魔女』だと嫌っているわけではないのかもしれませんわ」
二年後の十五歳になれば兄と同じくリディアスに留学する予定のラヴァンドラは、魔女狩りをされるほどの魔女には出会ったことがない。キミィだって、悪い子じゃない。
そんなキミィとのお喋りに付き合うセーブルが、悪い子であるわけがない。
「きっと、お友だちになれるはずね」
ふと自分のことに降り立ってしまった彼女は、なんだか安心してしまい、重い瞼のなすがまま、そのまま眠ってしまった。
そう、母が何を書いていたのか、それを考えていたことすらすっかり忘れてしまって。
セーブルの祖父もそのイワン陛下と従兄弟関係であるということも、気づかずに。
そして、強がっていることも、ひとりが寂しくて、お供にとつけられたセーブルとお友だちになりたいと願っていることも。
大切で大好きなママさまであるグレーシアが、ラヴァンドラに言い残した言葉の意味すら考え及ばず。
ぜんぶ夢の中に放り込んでしまった。




