第65話 どうしようか悩む
アルマリンに気づかれているかもしれない。
彼女の肉体の成長があってから……俺が少しギクシャクしていることを。
(だが……あれほどまでに、美しく成長するとは思わなかった)
まだ幼いとは言え、背丈が一気に伸び、ほかの箇所も発育が立派になった。
俺の方が先に成長しているが、城に詰めていた頃は、年上の女たちにちやほやされるのは苦手としていた。
外見だけの不釣り合い。
実年齢はただの子ども。
その事実を知ってもなお、群がろうとする輩は後を絶たない。
アルマリンは特殊な事情も抱えているから、幼い外見であっても親しみを持てたのだが……俺の本来の年齢の段階にまで、成長しただけなのに、驚き以上の感情を覚えてしまったのだ。
ひとりの女性に、心を傾けたことのないこの俺が。
ときめきに似た、心の高ぶりがなかなか落ち着かないのだ。
あんなにも、愛らしく美しく成長しただけだと言うのに。
「……今は、風呂か」
そして、少しばかり、邪な考えまで抱いてしまっている。風呂に入っているのなら……と。城に詰めていたときに先輩の男どもが女の裸体について、猥談まがいなことを口にしていたのには俺の内面が幼すぎて同意は出来なかったが。
それを思い出すと、今なら理解出来てしまった。
服の上からでも、少し発育の進んだ胸部。
きゅっとした腰回り。
細い手足はシミひとつない。
丸みを帯びた幼い少女が、少し大人の顔を垣間見せてくれているような気がして。
どうも、高鳴りが止まらない。これが、世にいう『一目惚れ』という奴なのだろうか?
彼女には、こちらで再会するまでに色々考察した上で興味は抱いていたのだが。
実際に、不釣り合いからの成長がひとつ進んだだけなのに、男として……俺はどうも、恋心に似た驚きを得てしまったらしい。
おそらく、勘のいい彼女のことだから、察してくれているのかもしれないが。
誤魔化しても、俺は共に居ていいのか……外見だけは大人なのに、酷く弱気な態度になってしまった。
「……この生活から、離れたくはない」
城に詰めていたときの、鬱屈な気分にはもう戻りたくはなかった。
屋敷に居ても、気遣ってくれる家族がいたとて、安らぎの場はなかったに等しい。
ここに居れば、少しの不便はあっても、毎日が新鮮に感じる。
素直に、『楽しい』と思えるのだ。
ただ、その中で、今の心情を抱えるのは非常によろしくないが。
自分から『友人』の位置にしてくれと、出会った当初申し出たんだぞ?
アルマリンにとって、俺の今の想いは切り離してほしいはずだ。
(……少し、落ち着こう)
こういう時こそ、素振りだ。鍛錬だ。
インベントリに仕舞ったままだった、模造剣を振りに外へ出ることにした。
また風呂に入ることにはなるだろうが、湯の張り方は教わっているので問題はない。
レシアムとすれ違ったとき、『どうしたの?』と声をかけられたが。鍛錬の話題を出せば、『気を付けて』とついては来なかった。
(彼にも、気づかれているだろうな?)
姿はあれでも、精霊様だ。長く生きていることで、俺たちのような人外に近い存在の劣情なども簡単に見抜けるのだろう。
それでも、止めないでくれるのは彼なりの優しさかもしれない。
とりあえず、小屋から距離を少し置いてから構えをして、剣を振り下ろした。
前は軽いと思っていた模造剣なのに、こころの内がもやもやしているせいか、いくらか重いと感じたのは気のせいじゃないだろう。
煩わしい感情のはずが、消したくないと思ったのは成長してから初めて感じた。
明日からは、また切り替えるためにも……小一時間くらいは、素振りを繰り返すのだった。
次回はまた明日〜




