第36話 勇ましい姫君
アルマリンが、いのちを奪った。
外見は幼い子どもが魔物を討伐した事実を見せつけられたが。彼女自身は、前世の記憶を持ちながらも武にも秀でた才能を持つ勇敢な姫君だ。
俺とて、小動物以外で奪ったことは昨日のオークが初めてだ。食すことが目的だったから、ためらいはなかったが……目の前で、いのちを奪うことの実感を得たのも、『それまで』と思ったので精神への負荷は感じなかった。
おそらくだが、年齢は子どもであれど、精神との不釣り合いが俺を外見どおりの『大人』に育ててくれたのかもしれない。
アルマリンは色々特殊だが、彼女の討伐風景には、思わず息を飲みそうになる。
ゴブリンの体液は気味の悪いものだが、その中で跳躍と魔法、剣技を駆使しながら舞うように討伐していくのは……素直に、『美しい』と思えた。清めてサラサラになった長い銀髪も相まって、さらに美しさが映えるようだ。
とはいえ、俺もうかうかしていられないと、魔法と剣、両方を扱いながらゴブリンたちを殲滅するのに動いていく。レシアムについては、取りこぼしがないかを確かめつつ、討伐に参加してくれているようだ。
「はい、最後!」
アルマリンが投げた短剣のように形状変化させた武器のおかげで、俺たちの討伐は終わりを迎えた。
それなりの後始末が必要になる光景が出来上がってしまったが、それは想定内。
まず俺は、この巣に結界を張ることにした。
「? ああ、このまま焼却したら、山火事の可能性が高いものね?」
「理解が早くて助かる」
俺の動作ひとつで、二手先を読むくらいはたやすいのも相変わらず。
婚約者候補ではあったが、彼女いると退屈しないで済む方が今は感情の振れ幅が大きい。
レシアムは精霊ゆえに、結界を無視してでも入り込めるので気にしないでおく。
結界の強度が、俺のルチルクォーツで構成することが完了したら……火魔法を使うのに、両手で印を組んだ。
(広がれ。俺たち以外、死した者たちを弔うための、手向けとなるように)
たしかに、俺たちの都合でいのちを奪ったことには変わりないが。
弔いをしないわけにはいかない。身勝手な都合であったと同じだからだ。
結界の中に、金属の粉を撒き、そのひとつひとつに火を篭もらせる。
その火が小さく灯れば、ゴブリンの死体や血に降りかかり、静かに燃えていく。
月の反対。最悪の正義。
などと、呼ばれたりもするルチルクォーツの最凶。
守護石としてはそれなりの認知度は高いが、それはアルマリンらのラピスラズリには劣る。
火が燃え上がり、こちらがやけどしない程度に火力を高めてやってもアルマリンたちは気にしないでいる。もしくは、自分の周りだけ瞬時に結界を張ったのか。さすがに早くて構成を見らなかったのは残念だが……まだ作業は終わっていないので、集中力を戻すことにした。
印をいくつか変えて、完全に焼き切ってから結界ごと火魔法を解除すれば……それなりに、焦げ臭い光景が出来てしまったが、まずまずの成果だろう。
「うわ~。腐臭が元からあったけど、さらにえぐい臭い~」
『掘って埋める?』
「その方がいいかも~」
「……手際が悪くて、すまない」
「そうは言ってないわよ?」
アルマリンは人差し指を立てて軽く振り、地面の凸凹を作ってから簡易的にゴブリンたちの埋葬をしてくれた。
俺の方は所作が多過ぎたと言うのに、これが現段階での神童の器の違い。俺なんて、足元にも及ばない技術力だ。レシアムを召喚出来た実績もあるし、この五年で計画してきた中身をうまいこと大人にバレずに出来た実行力もある。
見習わねば、と思わずにいられない。
『ここはこんな感じでいいかもね? 今日のご飯はどうするの?』
「罠はそう簡単にかかるわけがないし……オーク探しても、一体でうろちょろしているものかしら?」
『あ~。探索してみたけど、二、三体でうろついているね? セルシスもいるから狩れると思うけど』
「手伝えるなら、使ってくれ」
解体の負担はどうしたって、アルマリンの方が上だから任せるしかないが。ほかのことで役に立てるのなら、遠慮なく手足になりたかったのだ。
次回はまた明日〜




