第26話 ルティアークの当主としては
何をしているんだ、あのバカ息子は!!
(……と、普通なら焦るだろうが。うちは違うんだよなあ?)
ルチルクォーツを司る、公爵の地位を持つ一角として……我がルティアーク家は王女殿下誘拐と同時期に起きた、実子の行方不明にはそんなに焦っていなかった。
「自分で志願したでしょう? 気に入って、逆に攫ったとか?」
「外見だけは立派に成人してても……やっぱり、そこはまだまだ思春期の子どもだったのかしら?」
「あり得るわよ、母上!」
「ねぇ? 貴方様はどう思って?」
妻と長女。
ふたりは、息子のセルシスの動向がどうなったのか。心配というよりも、別の期待した未来を進んでいるのではないかと……陛下には大変失礼なことでしかないが、うきうきしいているようだった。
「そうだな? 攫ったは言い方がよろしくないが……同行していったのでは、ないかな?」
「そうね? 無関心だったあの子が、単独で捜索したいって言ったのでしょう? 十分、興味以上の何かを得たのでしょうね」
「殿下が赤ん坊のときに、すっごく顔見ていたものね?」
「そうね」
「……だとしたら、当主の座はマシェリナかその子に移るか?」
「え~~? 私は面倒よ~?」
こんな感じで、ちっとも心配していない。
なんなら、息子の門出を祝うくらに、あれの行動力に感心しているくらいだ。
姉のマシェリナも非常に優秀ではあるが、セルシスのように精神と肉体の不釣り合いからの成長はなかった。十五の今まで、年相応の座学と武を兼ね備えたルティアーク家の令嬢としてふるまってはいるが。
実際のところ、外見だけなら兄妹に見られる弟のことを、普通に可愛がっている姉でしかない。
セルシスはマシェリナのことをどんな姉で見ていたかは聞いていないが、まあ、それなりの答えを出すだけだろう。
武と学に秀で、精神もそれなりに成熟していると思っていたのは……私たちもだが、周囲もそれなりに認識していたというのに。
瞬時に戻ってくると思っていた我が子が、一週間近く、行方知れず。
それは、誘拐されたと現在は断定となった王女殿下もだが。
このふたり、もし合流していたとしたら、婚約者として意気投合したと思うだろうか?
いいや、姫はともかく、息子の方は必要以上の興味を抱いたのかもしれない。
なら、私の発言のように、同行したのが可能性としては高かった。
「どうします? 次期当主の行方知れず……精鋭隊を出しますか?」
「当主としては、もう少し様子を見たいところだ。……さすがに、ひと月以上も空いたらだが」
「あら? 陛下としては寵姫の殿下の方が優先でしょう? とっくに精鋭隊を出していても、まだなのに。最凶とも言われているうちのを出さなくていいの? 父上」
「ははは。たしかに、瞬時に見つけてはくれそうだが。セルシスらを説得するには難しいだろうね? 無理やりはよくない」
「ん~、そこもそうね? 食事は大丈夫なのかしら?」
「ああ。伝承は虚偽ではなくとも。……肉体に変化が起きてしまうのは致し方ない」
ヒトの血が混じった、我が【宝石族】の構造。
魔を喰らえば、闇に染まり。
聖を捉えれば、光に染まるという。
これらを守り過ぎて、どちらの耐性を得れないとくれば……王家は守り過ぎて、免疫を持たない種族となり果ててしまう。
その検証もしたくて、私は公爵としても。ルチルクォーツを司る者としても……確かめたかった。
今のところ、それらしき遺体も見つかっていないのであれば殿下もうちの息子もつつがなく生きているのだろう。
至高と最凶の組み合わせ。婚約はともかく、友としてなら生き長らえている可能性は十分にあり得る。
その可能性を見出せるのは、今回限りかもしれない。
だからまだ、私は動きたくなかったのだ。
次回はまた明日〜




