第24話 幼くとも年上の女性
みくびっていた、と言っていいのか。
アルマリンは俺の予想していた以上に、年上の女性が持つ知性と気品を兼ね備えていた。
汚れ仕事も厭わず、はじめての珍味も積極的に食べてみるなど……王家で育ったというのに、まるでベテランの冒険者のようだ。
外見はたったの五歳なのに、幼い見た目以外は十二の俺どころかもっと上だろう。
異世界からの転生してきた者は、皆こんな感じなのだろうか? 今のところ、彼女しかそんな存在は確認できていないが。
「ん~。おいし、この果汁」
そして今、俺がさっき咳き込んで飲めないと断言したルルクの果汁を……シェルンの実の果汁と同じように、美味そうに飲んでいるのがまだ信じられない。
今は、俺でも飲める『なにか』を探す途中だが。休憩するたびに、黒い液体を飲み干す様子が……『大人』なんだと俺の中で再認識してしまうのが、なぜか悔しかった。
年齢の関係で、たしかに俺も酒は嗜むことを許されていないのだが……茶に近い飲み物で、あんなにも笑顔になれるものなのかがよくわからない。
苦いんだぞ?
薬品かと、俺が思ったくらいなのに??
なのに、アルマリンは全然平気で何回も口にしている。……これが、本当に精神の不釣り合いの差じゃない生き方をしてきた者の、嗜好品なのか。順応すれば、この方は酒でも平気で飲めそうな気がするな……。
「……そんなに飲んで、腹を壊さないか?」
「だって、五年ぶりのコーヒーよ? がぶ飲みし過ぎると眠れなくなるけど、まだ昼間だし?」
「そんな効能が?」
「味がそっくりだけど……レシアム、合ってる?」
『ううん。普通に苦いだけの果汁』
「じゃ、お花摘みの注意だけね?」
と言って、くいーっと煽る仕草は……少しばかり、勇ましいな?
ともあれ、俺の飲める果汁とやらはどこにあるのだろうか。
レシアムが言うには、対となる果実が近くにあるだろうと、かれこれ四半刻くらいは探していても見つからない。別の精霊様の加護のせいか、なにが原因なのかはわからないが……俺もいい加減、ちゃんとした飲み物が欲しかった。水魔法の清潔な水だけでは、たしかに味気ないしな?
『うーん。少し距離があるけど、マリンに借りた茶葉の匂いに近いのを感じる』
探索を再開して割とすぐに、レシアムがそんなことを言ってくれた。
紅茶に似た果汁。それがあれば、俺の嗜好品も増えることになる。少し、やる気が出てくると、アルマリンから笑い声が聞こえてきた。
「セルシス、嬉しそうね?」
くすくす笑っているだけなのに、外見は本当に五歳児のままなのに。
なんだか、母上や姉上に宥められたときのような、やわらかな雰囲気を感じ取れた。一瞬だけ、彼女の魔力を感知した時とは違う、鼓動の高鳴りを覚えたがすぐに落ち着いた。
なので、紡ぐ言葉も慎重に変えていく。
「当り前だろう。君だけ喉を潤すのはずるい」
「ふふ。慣れれば、セルシスでも飲めると思うんだけど」
「いや、いい。君が独り占めしても構わない」
「あら、そう?」
ほら、それだ。
何気ない言葉の返し方。
それこそが、肉体と不釣り合い過ぎて、俺にはひとりの女性にしか見えなくなってきている。
あとどのくらいで、この少女の姿から変化してしまうのか。
単独での捜索前から思っていたように、興味以上の感情を覚えるのか……不安がないわけではないが、他所の男どもにやりたくない気持ちが強くなっていく。
七つくらい俺が上でも、中身は逆転しているのが少し悔しい。
見返してやりたくても、彼女自身の前世とやらが宿っていなかったら、こんな新鮮な生活をすることもなかった。
俺は……つくづく実感するしかない。自分が、レシアムが言うように、まだまだ経験の浅い子どもなのだと。
(完敗を認めたくないが……何をしても敵わないだろう)
そればかりは、今のところ、認めるしかないのだった。
次回はまた明日〜




