第115話 どうしようどうしよう
ノックが聞こえてきた。
叩き方と位置からして、セルシスに違いない。
と言うか、レシアムは居ても人間じゃないし、獣体型だから実質同棲とほぼ同じ。
今さっき、自分の気持ちを自覚したとは言え……よくもまあ、今まで意識から逸らしていたものだ。自分で自分に勲章を贈りたいくらい。もしくは、ただの鈍感女だったかもしれないが。
「……アルマリン、俺だが」
オレオレ詐欺とは言わない。この声を間違えるはずがありません。恋だと自覚した相手の美声を間違えるはずがないもの!!
だからって、このぐるぐる状態を見られたくないし、突き返していいものか……数秒悩んだ。
①素直に出るか
②今はダメと突き返すか
二択で一分くらい悩んだけれど、待たせるわけにもいかないので布団から出てしっかりと整えて……扉の前に立った。
当たって砕けろとかじゃないと思うけど、もう一度謝罪はしないと。こっちもマナーを守らずに脱衣所の扉を開けたんだもの。
「……はい」
我ながら、なんと覇気のない声だろうか。いつも元気いっぱいのつもりではいたが、こんなにも撃沈した声は自分でもはじめて聞いた気がする。アウトドアで自分がリーダーシップを取っていたけれど、前向きにいかないと生活向上のために動けなかったんだもの。
恋愛なんて、二の次どころか全然考えて来ずに、城からも脱走してきたというのに。
まさか、お父様の采配どおりの相手に、恋をするなんて思ってもいなかったんだもの!!
「……開けて、いいか?」
「えっと……その前に、さっきのことはごめんなさい。無神経過ぎました」
「気にしてないが。……見苦しいものを見せてすまない」
「? なんで、セルシスが謝るの? 悪いのは私なのに」
誰もいないとか思い込んで、うっかりばったりをしちゃったのは私自身だ。
セルシスが謝る必要は全然ないのに……むしろ、謙遜している態度が好ましく思えちゃう。気遣いは嬉しいけど、私を『女』として見ているから……そんな風に言ってくれるのだろうか。
その予想が外れていたら悲しいけど、もし当たっていたら……想像しただけなのに、胸の奥が熱くなってきた。自覚したてでも、私は彼が好きなんだなってはっきりわかったわ。
「……本当は、すぐに追いかけたかったんだが。レシアムに止められた」
「レシアムに?」
すれ違ったような気はするけど、あの先生は超ご長寿の精霊様だから……私たちのやり取りを簡単に予想して、お互いの気持ちを察することも容易だったに違いない。たしかに、すぐに追いかけられてきたら、ここまで冷静にはなっていなかったもの。
「アルマリンの気持ちも考えずに、無闇に押し付けるのはよくないと、な。たしかに、俺も今はそう思っている」
「押し付ける?」
「……気づいてくれていないのか?」
「え、えぇ??」
ということは、さっき考えていたことがドンピシャってこと??
これ、遠回しではあっても……告白されている??
応えて……いいのだろうか。こんな簡単に。
私がそのまま黙っていると、扉がゆっくりと開けられ……セルシスが優しく微笑んでいる姿が目に飛び込んできた。今までに見たことがないくらい、慈愛に満ちた表情。こんな素敵な表情出来たのこの人!!?
次回はまた明日〜




