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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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ハナの記録㊳ いつもの部屋に戻るだけの話

——あっという間に1週間が過ぎた。


今日までに、ルームメイト以外のみんなも、それぞれ面会に来てくれた。


暴走しちゃった姿を見たはずなのに、先輩も後輩も、みんな変わらず接してくれて…

それがありがたくて何度も泣きそうになったけど、不思議と涙は出なかった。


どうやら、機械の身体には涙を流す機能は搭載されていないようだ。

それなのに、こうして“泣きそうになる感覚”が分かるのも人間の記憶があるから…なのかな?



……



それから、下半身が戻ってきた。

いや、正確には、新しい下半身を接続した。


言葉にすると簡単に聞こえるけど、何度も調整しながらの接続作業——

レイ主任とコイ先輩の2人がかりで、かなりの時間、悪戦苦闘していた。


私は横になったり、試しに歩いてみたりを繰り返すだけだったので、後半は申し訳なさに押し潰されそうになっていた——


……


主任は、元々の下半身にできるだけ近いものを用意してくれた。

それでも違和感があり、最初はバランスを崩して後ろに倒れそうになった。


主任によると、前の下半身は何十年も使っている間に私の動きに合わせて摩耗していた——

新しい下半身は、どれだけ形状や材質を似せても新品は新品——

だから、慣れるまではどうしても違和感が出るらしい。


ここ数日は、部屋の中を歩いたり、軽くスクワットをして様子をみていた。

ちょっとずつではあるけど、馴染んできてる…気もする。

今日の朝は、軽くジャンプしても問題なかったくらいだ。



……



そして今日は、いつもの部屋に戻る日でもある。

まだ作業には復帰しないけど、とりあえず部屋でみんなと過ごしていいことになった。


正直、ちょっと不安もある。


また自分が暴走しないか…という不安。

そして、ハハとうまく交流できるか…という不安も少し。



あれから、ハハのことを色々考えてた。

今まで接してきたハハは、そう見せようと作られたハハで…

危害を加えられそうになったのも、後からちょっと怖くなって——

でも、ちゃんと話してくれたから、なんでそうしようとしたのかは理解してる。


それに、私だって、自分を抑えられなくなって衝動的にハクを殴ってしまった。

ハハは結局、私を殴らなかったんだ。

だから、私よりずっと理性的だと思う。


今までのハハが虚像だったとしても、これから本当のハハを知っていけばいい——


そう思ってはいるのだけど…

あんなことがあった手前、どう接し始めたらいいのか分からないのだ。


部屋に戻って、最初に何を言えばいいのか…

額に指を押し当てながらずっと考えてるけど、本当に何も思い浮かばない——

これが、最近の私の悩みだ。



……



部屋に戻った時の第一声…

何度も脳内でイメージトレーニングをしたが、どれもしっくりこなかった。


あれじゃない、これじゃないと悩んでいる内に、無情にも時間は過ぎていき……



とうとう、その時がやってきてしまった。



ちなみに、無情なのは時間の流れだけではなかった。

部屋にやってきたレイ主任は、まだ中にいた私を見て、


「さっさと部屋に戻れ」


と私を追い出した。

困ったような顔をしてみたが、とりつく島もなかった。

主任は相変わらず主任だ。


……


結局なにも思い浮かばず、みんなが待っているはずの扉の前まで来てしまった。


おそらく、数十秒はそこで躊躇っていたと思う。

その間、ハコちゃんが隣の部屋から頭だけ覗かせて、謎の笑顔を向けてくる工程が3回ほど挟まった。


ハコちゃんの3回目の笑顔と、パチクリとした目を見て、軽くため息をつく。

そのお陰かは分からないが、なんとなく諦めがついて、扉をノックした。


コンコンッという音を聞きながら、

(自分の部屋に入る時にノックするのも変な感じだな…)

なんて思ったりもしたが、今更なので気にしないことにしてドアノブに手をかけた——



部屋に戻った時の一言目……

もう分かんないし「ただいま」でいいよね…??!

半ばやけくそになりながら大きく扉を開き——




『ごめんなさい…!!!』




——突然聞こえた声で、私の脳内にあった第一声候補達は霧散してしまった。


声の主はハハだった。

床につきそうなくらい頭を下げている。



「あっ…えっと……」



突然の事で、うまく返事が出てこない。

困ったように視線を泳がせ、部屋の奥にいるハロとハクを見た。



「いやぁ〜、あたしは止めたんだけどね。もう何度も謝ったんだし、これからの付き合い方に一歩踏み出すべきだって。でも、ど〜しても謝るってきかなくてさ♪」


「……そっか。」



ずっと天真爛漫なハハしか見てこなかったけど…

ほんとはすっごく真面目なのかもしれない。

きっと私と同じように…いや、もしかしたら私よりも、今日なにを言うか悩んで過ごしてたのかな…?



「…ハク」


「ん〜?どーしたの?」


「ごめんなさい…!!!」


「えっと…?ハナちゃんも、もう何度も謝ってくれたじゃん」


「うん…だから、これで最後にする。これからは態度で示すよ。」


「そっか…りょ〜かい♪」


「だから…ハハも、これで最後ね。せっかく本当のハハと向き合えるんだもん。ずっと謝罪モードじゃもったいないよ。」


「………うん」



少し時間はかかったけど、ハハはゆっくりと顔をあげた。

目を合わせると、軽く頷いてくれて…

ちゃんと気持ちが伝わったんだなと思えた。



「それから…ハロ」


「……ん」



チラリと私の休眠装置を見る。

みんなから聞いていた通り、装置の周りには手作りのお守りらしきものが沢山ぶら下がっていた。


ゆっくりとハロに近づいて、背中に腕を回す——



「心配かけてごめんね……ただいま」


「うん…おかえり。さみしかった」



……



私にハハ、それにククちゃんも、暴走したりおかしくなるのを見たり体験したりした。


私達は、どこか欠陥があるのかもしれない。

だから、もしかしたら、また暴走する子が出てくるのかも…


きっと、主任に聞けば何かしら教えてくれるだろう。

いや…みんなの事を考えて、「知らない」と言うかも。


でも…どっちにしても。

こうして向き合って、乗り越えていけるのなら…

欠陥も暴走も、そんなに大きな問題じゃないよね…?

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