ハナの記録㊴ 彼女はその箱を壊しましたか?はい/いいえ
今、私の目の前には無表情の主任と、全身で反省の意を示しているククちゃんがいる。
もう1分近くこの状態が続いているが、今のところ変化の兆しは見えない。
第三者というわけでもない私は、ただそれを見守るしかなかった……
……
話を遡ると…
みんなのいる部屋に帰った私は、久しぶりに自分の休眠装置で夜を過ごした。
休眠開始時間ギリギリまでお喋りしていたので、ちゃんと休めるか心配だったけど…
やっぱり慣れた場所に戻れたからか、朝になるとかなり調子が良くなっていた。
そこで、ほったらかしになっていたお悩み相談BOXの状況を確認しにいったのだが…
——共用スペースに置かれたBOXは、見るも無惨な姿になっていた。
具体的には、後ろの取り出し口がこじ開けられている。
その時に負荷がかかったのだろう…箱の前面まで亀裂が伸びていた。
胸の辺りがズキンと痛むような感覚が走り、BOXをそっと手に取る。
どういう経緯でこうなったのかと、不安な気持ちを抱えていると…
——遠くから、懐かしくも騒がしい声が聞こえてきた。
……
騒がしい声の主…もといククちゃんは、不必要なほど手を振りながら私の元に走ってきた。
「ハナ先輩、久しぶりー!!……あっ…」
「うん…久しぶり」
私の中では、既にさっきまでの不安な気持ちは消えていた。
というのも、ククちゃんは駆け寄ってきた後、私が手にした箱を見て、
「あっ…」
と言ったのだ。
そして、今もバツの悪そうな顔をしている。
私は、わざと見えやすいように箱をククちゃんの目線まで高く持ち上げた。
「それで…?話だったら聞くよ?」
「あ、えーっと……。その箱!ちょっと開けにくいよねー!」
「うん…勝手に開かないように鍵かけてたからね。」
「…………」
「…主任呼んでくるね。」
……
というわけで、私の目の前には無表情の主任と、全身で反省の意を示しているククちゃんがいた。
既に、主任による事情聴取は済んでいる。
さすが主任というべきか、ククちゃん相手でも、実に無駄のない取り調べだった。
ククちゃんによると、これは善意の事故だったらしい。
私が動けなくなった後、お悩み相談係が不在になることを憂いた彼女は、毎日BOXの様子を見にきていたらしい。
…そういえば、前にハクがそんなことを言ってた気がする。
最初、BOXには何も入っていなかった。
けれど、日に日に中に紙が増えていき、とうとう箱を圧迫し始めて今にも破裂しそうになったそうだ。
……あくまでククちゃんのよると、である。
そこで、代理のお悩み相談係としては見過ごせないと思い、どうにか箱を開いて中身を取り出そうとした。
………一応言っておくと、代理というのはククちゃんが勝手に名乗っているだけだ。
こうして、箱の中の大量の紙を救出したのだが…
それらの紙の内容はお悩み相談というわけではなく、全て私宛の手紙だったそうだ。
確かに、あの頃は面会の制限もかかってたし、みんな手紙という形で何か伝えたかったのかもしれない。
でも、箱に入れても私が見るのは元気になった後になりそうなのに…
どれくらいの人が手紙を入れてくれてたのか分からないけど、誰も気付かなかったのだろうか?
ククちゃんが自供を終え、更に1分間の反省ポーズをとった頃…
主任は呆れたようにため息をついた。
張り詰めていた空気が和らいだのを感じたのか、ククちゃんはすぐさま顔を上げる。
それを見て、私も呆れ気味になりながら、気になっていたことを質問した。
「それでククちゃん、中身は私宛の手紙だったんだよね?それ貰ってもいい…?」
「えっとぉ……あーと………」
「…………ククちゃん?」
これがナオさんが描いたイラストなら、きっと私のおでこの辺りには、怒りのマークがかかれていただろう。
——直後、ククちゃんはまた反省のポーズを取り始めた…。
……
ククちゃんによると、大事な儀式とやらに大量の紙が必要で、結果として全部燃やしてしまったらしい。
前にククちゃんの部屋に訪れた時にも変な祭壇を見かけたが…
そういうオカルトじみたことも彼女の趣味なのだろう。
私は、謎の理由で大量の手紙を燃やされてしまったことを知り、脳がショートしていた。
言葉は理解できるのに、理解できない。
おでこに怒りマークを貼り付けたまま、笑顔で固まってしまっていた…。
レイ主任も、これには相当お怒りになったようで、私が固まっている間にククちゃんを反省室まで引きずっていってしまった。
静かになった共用スペースには、私と壊れた箱だけが呆然と佇んでいた——。
まぁ……
これからまた、みんなにも会えるんだし…
誰が手紙を書いてくれてたのかは、ゆっくり確かめていけばいいよね?
そうやって、脳内で無理矢理自分を納得させることに成功すると、ボロボロになった箱を見つめた。
そして、箱を修理するか、新しく作り直すかを考え始めた———




